お知らせ
2025.06.24
Part❶: アンチモン市場の現状と供給の課題
アンチモン市況は2025年年初から約5割上昇し、6万ドル/トンに迫る水準で推移しており、これは2000年代初頭の価格と比較すると約40倍、2024年初頭と比較しても75.8%の上昇、特に2024年4~5月の2ヶ月間だけでも57%値上がりしたという報告がありMIRUの市況報告によると、6月12日現在で99.65%中国価格はUS$34,750/Ton、欧州価格はMMTA gradeがUS$59,000/MT、三酸化アンチモン99.5%(中国FOB)がUS$32,650/Tonである。 つまりレアアースの騒ぎどころではない深刻な値上がりである。
アンチモンの特性と利用用途
アンチモン(元素記号Sb、原子番号51)は、銀白色で脆い半金属元素である。熱や電気の伝導性が低いという特性を持つ。このユニークな特性から、難燃助剤、鉛蓄電池、触媒、合金など、幅広い産業で不可欠な重要なレアメタルとして活用されている。特に、三酸化アンチモンは難燃剤として火災安全に貢献しており、現代社会の安全を支える上で欠かせない存在である。
アンチモン資源の現状と分布
アンチモンの埋蔵量と生産は、中国に極度に集中している。世界のアンチモン埋蔵量の50%以上、そして生産量の約90%を中国が占めており、これは市場の脆弱性の大きな要因となっている。レアアースと比較すると以下となる。
レアアース(REE) アンチモン(Sb)
資源シェア(埋蔵量ベース) 約 34〜38%(代表値:36%) 約 30〜55%(代表値:32%)
生産シェア(採掘量ベース) 約 70%(2023年時点) 約 48%(2023年時点)
中国国内では湖南省が最大の産地である。中国以外では、ボリビア、南アフリカ、ロシア、中央アジアのキルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンなどが主要な生産国として挙げられるが、いずれも供給量では中国に及ばない。日本国内にも鹿児島湾の海底に有望な輝安鉱(アンチモン鉱石)鉱床が確認されているが、現状では輸入に大きく依存している。アンチモンの主要な鉱石は「輝安鉱(Sb₂S₃)」で、主に熱水性の鉱脈鉱床から産出される。
2025年におけるアンチモンの需給バランス
2025年に入り、アンチモン市場は極度の供給逼迫に直面しており、価格は歴史的な高騰を続けている。既に報告した様に2025年の年初から約5割上昇し、6万ドル/トンに迫る水準で推移しており、これは2000年代初頭の価格と比較すると約40倍、2024年初頭と比較しても75.8%の上昇、特に2024年4~5月の2ヶ月間だけでも57%値上がりしたという報告がある。メディアはレアアースばかりで騒いでいるが実はアンチモンやガリウムやゲルマニウムなどのマイナーメタルの方が現場では深刻である。
中国による輸出規制の強化
最も決定的な要因は、中国政府によるアンチモンの輸出規制強化である。2024年8月にアンチモンを含む重要鉱物の輸出許可制度が導入され、同年9月15日に発効した。特に米国向けには、2024年12月にガリウム、ゲルマニウムと共にアンチモンが軍事・民生両用物資として事実上の輸出禁止措置が取られた。2025年3月には、中国からのアンチモン輸出が実質的に完全に停止し、数週間で世界市場の価格が50%も上昇する事態となった。2025年の輸出割当量は、2019年と比較して80%も削減され、わずか10,000トンに制限されている。中国はアンチモンを国家安全保障や資源保護の観点から戦略物資と位置づけており、米中間の戦略的対立、特に半導体などの先端分野での競争が、サプライチェーンにおける摩擦や報復措置を誘発している。この規制強化により、中国からの金属アンチモン輸出量は前年同期比76%減、鉱石輸入も全体で34%減少している。
供給国での地政学的リスク
中国以外の主要生産国における地政学的リスクも供給不安を増大させている。ミャンマーでの地震や違法行為の取り締まり強化などが供給に影響を与えている。実はミャンマー北部を支配しているのは中国でありアンチモン資源は密輸も含めて中国に流れているのが実体だ。筆者はミャンマー北部のアンチモン資源開発に注力した経験があるが別の機会に報告したい。千夜一夜17夜を参考にして欲しい。https://www.iru-miru.com/article_detail.php?id=73048
また、ロシアによるウクライナ侵攻以降の供給不確実性も、市場に影響を与え続けている。
世界的な需要の堅調さ
価格高騰の背景には、アンチモンに対する根強い需要の存在がある。難燃剤としてプラスチック、塗料、接着剤、ゴム、繊維製品などに利用されている。また、鉛蓄電池の電極添加剤として、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー貯蔵システムにおけるバッテリー需要の増加が、アンチモンの需要を牽引している。さらに、半導体や軍事用途における戦略的需要も増加している。その他、ポリエステル製造触媒、合金、ガラスの消泡剤、ブレーキ材、花火など、多岐にわたる分野で利用されている。
なお次回はPart❷として日欧米のアンチモン市場への対応策と今後の展望と予測について報告したい。