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2025.05.04

レアメタル千夜一夜 第33夜 ウクライナとアメリカ 鉱物資源の合意文書を考察する

 レアメタル千夜一夜の26夜から32夜まではウクライナの鉱物資源に関わるトランプ大統領の地政学的行動をエッセイにした。5月に入ってその方向性が決まったので緊急で報告したい。
ウクライナとアメリカは、4月30日にウクライナ国内の鉱物資源開発を共同で行う経済連携協定に署名した。この協定は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの停戦にどのように影響するかについて考察したい。


 アメリカ財務省は、この協定がウクライナの復興を加速させるためのものであると述べている。ベッセント財務長官は、和平プロセスへの関与を明確に示すと強調している。2月には、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の間で激しい口論があり、協定は一旦取りやめになったが、4月30日にワシントンで両国は復興投資基金の設立に合意した。


 筆者の見方では奇跡的な合意だった。2月のトランプ大統領とゼレンスキー大統領の子供の喧嘩で鉱物資源開発は一旦流れてしまったがその後トランプ大統領はプーチン大統領と接近しウクライナへの支援を見直しプーチンに有利な休戦に持ち込むかに見えた。しかしプーチンはトランプの提案を無視した。トランプはプーチンに裏切られたと思い、バチカンでのゼレンスキー大統領との個別面談で完全にウクライナ寄りの方針に傾いた。その結果30日の鉱物資源開発を共同で行う経済連携協定に署名したのである。トランプ、プーチン、ゼレンスキーの三つ巴の駆け引きと腹の探り合いを制したのは最終的にゼレンスキーだった。プーチンは一切の妥協はしなかった。トランプは大統領就任後100日以内の停戦には成功しなかったが面子は守ることが出来た。言わばゼレンスキーの粘り勝ちが功を制した。まさにトランプ顔負けの天才的なディールであった。


 この鉱山資源開発基金は、ウクライナとアメリカが共同で運営し、ウクライナ国内の鉱物資源、石油、ガスの採掘プロジェクトに投資する。また、ウクライナの資源の所有権はウクライナにあり、基金の運営においても両国は対等な関係を維持することが確認された。アメリカは、この基金に対し直接資金を投入しつつ防空システムの供与を通じて貢献する。


 協定が合意されるまでの1週間は劇的な変化があった。特に26日のバチカンに於けるトランプ大統領とゼレンスキー大統領の膝詰め会談が流れを変えた。27日のルビオ国務長官はアメリカは停戦の仲介を止める可能性に言及した。28日にはプーチン大統領が5月9日の戦勝記念日の前後3日間の停戦を発表した。 29日にはゼレンスキー大統領がプーチン大統領のまやかしだと非難声明を出しウクライナに同調を求めるロシアを一蹴した。


 ウクライナのシビハ外相もXで「ロシアが真に平和を望むのであれば数日間ではなく、完全な停戦が必要だと重ねて訴えた。そして30日の鉱物資源開発を共同で行う経済連携協定の署名に至ったのである。トランプとプーチンとゼレンスキーの壮絶な駆け引きの結果であった。


 今後は鉱山資源開発基金を利用したスキームが増えてくることが予想される。人類の歴史は地球人口の爆発から80億人から100億人になるのは確実である。人工知能が人類史を変革しするなら人類の技術革新は等比級数的に増えていくと予測される。限られた地球の資源争奪戦が益々激化することは確実である。その意味で世界の資源国が注目されるのである。ウクライナの資源情報は注①を参照されたい。


 ウクライナにとって、この協定は経済支援を受ける機会であり、アメリカの技術を活用することで鉱業技術が向上する。さらに、アメリカとの関係強化は安全保障面での後ろ盾となる。一方で、鉱業の拡大に伴う環境リスクや、外国企業の影響が強まることによる政治的不安定性も懸念される。


 停戦は持ち越しになったがロシアの80回目の戦勝記念日の後には再び戦闘が始まることはほぼ確実である。


 注1:https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2022/01/trend2021_ua.pdf

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