お知らせ
2025.05.04
トランプ大統領、深海採掘推進の大統領令に署名
2025年4月24日、ドナルド・トランプ米大統領は、深海鉱物資源の開発を促進することを目的とした大統領令に署名した。この措置は、突如として実施された中国のレアメタルおよびレアアースの対米輸出禁止措置に対応する形で打ち出されたものである。すなわち、この大統領令は、レアアース戦略資源の供給安全保障を巡る米中対立の新たな局面を示すものであり、トランプ政権の資源ナショナリズムの最たる表現ともいえる。
今回の大統領令では、米国政府が深海鉱物資源、とりわけ国際海域および米国領海内に眠る多金属団塊、熱水鉱床、コバルトリッチクラストといった未開発資源の調査および商業採掘を迅速に推進する体制を整備することが明記されている。とりわけ、ニッケル、銅、コバルト、マンガンといった電気自動車や再生可能エネルギー機器に不可欠な鉱物資源に加え、戦略的に重要なレアアース元素、すなわちディスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、ネオジム(Nd)、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ルテニウム(Lu)、スカンジウム(Sc)など7種類が注視されている。
米国には一定の国家備蓄が存在するため、直ちに深刻な供給危機が生じるとは考えにくいが、仮にこの禁輸措置が長期化した場合、数年以内には備蓄が底をつくことが懸念されている。そのため、今回の大統領令は、米国が将来的な資源自立を果たすための極めて現実的な政策転換と評価できる。
特筆すべきは、アメリカの排他的経済水域(EEZ)内において、推定10億トンを超える多金属団塊が眠っているとされている点である。これらの団塊には、高品位のニッケルや銅、さらにはレアアース元素が豊富に含まれており、採掘が商業化されれば、アメリカ経済にとって莫大なプラスとなる。大統領府の試算によれば、この政策によって今後10年間で米国のGDPを累計3000億ドル押し上げ、10万人の新規雇用を創出できる可能性があるという。
もっとも、こうした国家主導の資源開発には環境保護団体からの強い反発も存在する。グリーンピースのアーロ・ヘンプヒル氏は、「深海は地球最後の未開のフロンティアであり、短期的利益のために取り返しのつかない破壊を招く恐れがある」として、政府の方針に対し警鐘を鳴らしている。
今回の措置は、単なる一国の経済政策にとどまらず、世界の資源地政学のバランスをも揺るがすものである。資源の自立化を模索するアメリカと、レアアースによる外交戦略を展開する中国との間で、今後の展開がますます注目される局面に入ったと言えよう。