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2026.09.01

レアメタル千夜一夜 第175夜 代替材料は中国支配を破れるか

――「使わない技術」という日本の資源戦略


 中国がレアアースやガリウム、ゲルマニウムなどの輸出管理を強化するたびに、日本では「新しい鉱山を探せ」「国家備蓄を増やせ」という議論が起きる。もちろん、それは必要である。鉱山開発も、調達先の多角化も、国家備蓄も欠かせない。しかし、資源安全保障には、もう一つの切り札がある。そもそも、その資源をあまり使わない。あるいは、まったく使わずに同じ機能を実現する「代替技術」である。私は半世紀近くレアメタルを扱ってきた。商売人としては、希少な金属の値段が上がれば面白い。品不足になれば、山師の出番も増える。しかし、日本産業全体の立場に立てば、値上がりを喜んでいる場合ではない。最も強い買い手とは、安く買える者ではない。「高ければ使わない」という選択肢を持つ者である。


資源を掘るだけが資源開発ではない


 資源開発というと、普通は鉱山を探し、穴を掘り、鉱石を取り出すことだと思われている。だが、私は三つの資源開発があると考えている。第一は、地下から掘り出す「天然鉱山」。第二は、使用済み製品から回収する「都市鉱山」。そして第三が、必要な金属そのものを減らす「技術鉱山」である。例えば、電気自動車や風力発電のモーターには高性能なネオジム磁石が使われる。耐熱性を高めるためには、ジスプロシウムなどの重希土類が加えられることがある。ならば、磁石の結晶構造や製造方法を工夫し、重希土類の添加量を減らせないか。さらにモーターの設計まで変え、レアアースを使わずに同じ働きをさせられないか。


 太陽電池では、電気を取り出す電極に銀が使われる。世界中に太陽光発電を広げれば、銀需要も膨らむ。そこで銀ペーストを細くし、使用量を減らし、一部を銅などへ置き換える。送電線や自動車のワイヤーハーネスでは、銅をアルミに置き換える。アルミは銅より導電率が低いが、軽く、価格面でも優位性がある。設計と接続技術を工夫すれば、銅不足への有力な対策になる。電池では、コバルトを使わないLFP電池などが広がっている。工具では、炭化タングステンの使用量を減らしたサーメットや、窒化チタン系材料が研究されている。これらはすべて、単なる節約ではない。供給国が持つ価格決定力や輸出規制の威力を、技術によって弱める国家戦略である。


代替とは「我慢すること」ではない


 代替材料という言葉には、どこか「本物より性能が低い安物」という印象がつきまとう。だが、本当の代替技術はそんなものではない。レアメタルを別の元素に置き換えるだけでは、重くなったり、熱に弱くなったり、寿命が短くなったりする。材料の交換だけで、元と同じ性能が出るほど工業製品は単純ではない。重要なのは、材料、部品、製造工程、制御ソフト、製品設計を一体として見直すことだ。磁石の性能が少し低いなら、モーターの形状や冷却方式を変える。アルミ線の接続部が劣化しやすいなら、端子や接合技術を改良する。電池のエネルギー密度が低いなら、車体を軽くし、パックの組み方や制御技術で補う。一つの元素を、別の元素に交換するだけではない。製品全体の知恵で、希少資源への依存を薄める。ここに日本の得意技がある。


代替材料にも弱点はある


 もっとも、「代替さえあれば中国依存から脱却できる」と考えるのも早計である。銀を銅に替えれば、今度は銅が必要になる。銅をアルミに替えれば、ボーキサイト、製錬電力、接続技術が問題になる。コバルトフリー電池が広がれば、リチウム、リン、黒鉛など別の資源需要が増える。タングステンを減らしても、チタンやモリブデンなど別の金属を使えば、新しい供給リスクが生まれる。資源問題に永久の万能薬はない。代替とは、依存をゼロにする魔法ではなく、一つの資源、一つの国、一つの技術に命綱を預けないための分散戦略なのである。だから鉱山開発、国家備蓄、リサイクル、調達先の多角化と、代替技術を組み合わせなければならない。


日本が持つ「見えない鉱山」


 中国の強みは、鉱山と精錬工程を大規模に押さえていることだ。日本が同じ土俵で物量勝負を挑んでも、簡単には勝てない。しかし中国が輸出を制限するたびに、日本企業が使用量を減らし、代替材料を開発し、リサイクル技術を高めれば、資源支配の効果は少しずつ弱くなる。売り手が最も恐れるのは、買い手がいなくなることだ。代替技術とは、輸出規制に対して声高に反発することではない。静かに設計図を書き換え、相手の切り札を切り札でなくしてしまうことである。これは、いかにも日本らしい戦い方ではないか。日本には巨大なレアアース鉱山も、大規模なコバルト鉱山も、世界を圧倒する銅山もない。だからこそ、限られた材料を薄く使い、長く使い、繰り返し使い、最後には使わずに済ませる技術を磨いてきた。


 資源を持たないことは、弱点である。だが、その弱点から、省資源、高効率、小型化、長寿命化という日本産業の強みが生まれた。日本の地下には鉱山が少ない。しかし、研究所の中に鉱山がある。工場の設計図の中に鉱山がある。熟練技術者の指先に鉱山がある。日本は資源を持たないからこそ、「資源を使わない技術」を磨いてきた。掘れないなら、減らせばよい。買えないなら、替えればよい。止められるなら、使わなければよい。この逆転の発想こそ、中国型の資源支配を乗り越える日本の勝ち筋なのである。

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