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2026.07.17
イルティシュ化学工場の挑戦
私が1993年前後から約5年間取り組んだのが、東カザフスタンのイルティシュ化学工場におけるレアアース原料の開発輸入であった。当時のカザフスタンは独立してまだ2年しか経っていなかった。政治も経済も混乱の中にあり、多くの国営企業が存続の危機に直面していた。当然ながら資金も不足していた。しかし、それ以上に苦しかったのはサプライチェーンの崩壊だった。ソ連時代には一つの巨大な経済圏として機能していた産業体系が、独立によって国境で分断されたのである。それでもレアアース事業は続いていた。
原料となる塩化希土は、ロシア北西部コラ半島で採掘されるローパライト鉱石を原料としていた。そのローパライトはウラル地方のソリカムスク・マグネシウム・コンビナートで処理され、塩化レアアースとしてイルティシュ化学工場へ供給されていた。私たちはその原料を個別のレアアースに分離し、高純度製品として市場へ供給するプロジェクトを進めていたのである。イルティシュ化学は当初はイオン交換法でレアアースほ分離を行っていた。レアアース分離技術の発展はすでに溶媒抽出法が主流になっていた。当時の工場長のカセノフ氏を日本に招待して三井金属の大牟田レアアース工場との技術交流を行った。現在では忘れられているが、旧ソ連には中国とは異なる独自のレアアース産業体系が存在していた。鉱山。化学処理。分離精製。研究開発。これらが国家計画の下で有機的に結び付いていたのである。
三井金属との共同開発
当時私は三井金属とも協力しながら、レアアース、タンタル、ニオブ、ベリリウム、などの開発輸入事業を進めていた。現在でこそ経済安全保障という言葉が盛んに語られている。しかし振り返れば、私たちは三十年以上前から中国以外の供給源確保に取り組んでいたことになる。当時は市場規模も小さく、多くの企業は関心を示さなかった。しかし特殊金属の世界では、一つの供給源への過度な依存が危険であることは昔から知られていた。その意味でカザフスタンは極めて魅力的な選択肢だったのである。
カザフスタンの本当の強み
現在、カザフスタン国内では、ネオジム、プラセオジム、サマリウム、テルビウム、ユウロピウム、ガドリニウムなどの重要レアアース元素の存在が確認されている。さらに同国は世界最大のウラン生産国であり、クロムやチタン、銅、亜鉛などでも世界有数の生産能力を持つ。私はここに大きな可能性を見ている。その理由は新規鉱山だけではない。むしろ既存のウラン産業や非鉄製錬産業から生まれる副産物に注目している。レアアース。ガリウム。ビスマス。アンチモン。インジウム。これらは既存の製錬工程から回収できる可能性が高い。新規鉱山開発には10年以上を要することも珍しくない。しかし副産物回収であれば比較的短期間で事業化できる可能性がある。私はそこに日本とカザフスタンの新しい協力モデルが存在すると考えている。
AI文明がカザフスタンを呼び覚ます
2000年代、中国の圧倒的な価格競争力の前に世界のレアアース産業は沈黙した。しかし現在は状況がまったく異なる。AIデータセンター。 EV。風力発電。半導体。防衛産業。宇宙産業。これらの需要が急速に拡大している。さらに米中対立によってサプライチェーン多様化が国家戦略となった。かつて経済合理性だけで判断されていたレアアースは、今や経済安全保障の中核になったのである。私はこの流れの中で、カザフスタンが再び世界の注目を集めると考えている。
JOGMECとの共同調査を提案したい
今回の現地調査を契機として、私はJOGMECとの共同調査を提案したい。レアアース産業は単なる鉱山開発ではない。分離精製技術。環境技術。工程管理。品質保証。市場開発。それらが一体となって初めて産業として成立する。カザフスタンには資源がある。日本には技術がある。両者が協力すれば、中国依存を低減する新たなサプライチェーンを構築できる可能性がある。私はその可能性を確かめるために、再びイルティシュ河畔へ向かうのである。あの頃のイルティシュケミカルの想い出は今だに懐かしい限りだ。オスケメンの6月は白夜の季節である。三井金属のK課長とペレボマイスキー(5月1日地域)にあったイルティシュ工場の芝生に寝転がってウオトカに酔いながら白夜の空を見上げていた日々が昨日のことのように蘇ってくる。