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2026.06.18

レアメタル千夜一夜 第157夜 AIはレアメタルを爆食する ――GPU、送電網、磁石、そして「工程支配」の時代へ

 五月晴れの京都を歩いていると、青もみじの静けさとは裏腹に、世界では巨大な地殻変動が始まっていることを痛感する。世間では「AI革命」と騒がれている。株式市場はNVIDIA一色であり、生成AI、GPU、半導体、データセンターという言葉が毎日のように飛び交う。しかし、私は長年レアメタルの現場を歩いてきた山師として、どうしても違和感を覚える。


 多くの人々は、AI革命を「ソフトウェア革命」や「半導体革命」として見ている。だが現実は違う。これは、「電力と資源の革命」なのである。そしてその中心にあるのが、レアメタルである。私は最近、「AIはレアメタルを爆食する時代に入った」と語っている。この言葉の意味を、今回は出来るだけ分かりやすく説明してみたい。


AIの正体は「巨大電力消費装置」である


 ChatGPTをはじめとする生成AIは、一見するとスマートな情報サービスに見える。だが、その裏側では想像を絶する計算が行われている。その中心にあるのがGPUである。GPUとはGraphics Processing Unitの略で、もともとはゲーム画像処理用に開発された半導体だった。ところがAI時代になると、このGPUが「並列計算」に圧倒的な強みを持つことが判明した。NVIDIAが世界覇権を握った理由もそこにある。しかし、GPUは猛烈に電力を消費する。AIサーバーは、もはや「計算機」というより、巨大な発熱体である。そのため、GPUの周囲にはHBM(高帯域メモリ)が積層され、冷却装置が並び、超高速配線が巡らされる。ここで初めて、レアメタルの世界が登場する。


タングステンが再び脚光を浴びる理由


 半導体の世界では、タングステン(W)の重要性が再び高まっている。理由は単純である。熱に強いからだ。AI半導体は異常な熱を発生させる。普通の金属では耐えられない。そこで微細配線や接点材料として、耐熱性に優れるタングステンが必要になる。タングステンは「古い金属」と思われがちだ。超硬工具、切削工具、ドリル、鉱山工具――そんな重厚長大型産業の象徴だった。しかし今、AI革命によって、タングステンは再び「先端産業の核心」に戻りつつある。私は前々回で既に閉山した鐘打鉱山や喜和田鉱山についての重要性を書いたが、日本のタングステン史は決して過去の遺産ではない。むしろAI時代に再評価される可能性は充分にあると強調したい。


AI革命の本丸はデータセンター


 だが、真の問題は半導体そのものではない。本丸は、データセンターである。AIは膨大な計算を24時間続ける。そのため世界中で巨大データセンター建設競争が始まっている。米国、中国、中東、インド――あらゆる国家がAIインフラを国家戦略に格上げした。ここで再びレアメタルが必要になる。なぜならデータセンターは、「金属の塊」だからだ。


銅の時代が再来する


 AIデータセンターでは莫大な銅が必要になる。送電線。変圧器。冷却装置。高電流ケーブル。全て銅である。私は長年、レアメタルを扱ってきたが、結局最後に文明を支えるのは「銅」だと感じることが多い。AI革命は、皮肉にも「古典的資源」の重要性を再び高めている。そして問題は、世界が既に銅不足へ向かっていることだ。新規鉱山開発は環境規制で停滞し、品位は低下し、投資回収期間は長期化している。ところがAIは待ってくれない。この矛盾が、今後の資源価格高騰の火種になる。


送電網が最大のボトルネックになる


 世間は半導体不足ばかり議論している。しかし、現場感覚で言えば本当に危ないのは、送電網である。AI革命によって世界の電力需要は急増している。その結果、変圧器不足、高圧ケーブル不足、発電設備不足、電力インフラ老朽化が世界中で始まっている。特に米国では、送電網建設の遅れが深刻化している。AIサーバーを置きたくても、電力が来ないのである。これは非常に象徴的だ。つまり人類は今、「情報不足」ではなく、「電力不足」に直面し始めたのである。


モーターと磁石の時代


 そしてもう一つ重要なのが、高効率モーターである。AI時代は電力不足時代でもある。だから世界は必死に省電力化を始めている。そこで必要になるのが高性能モーターであり、その核心にあるのがネオジム磁石である。この磁石は、佐川眞人博士が発明したNdFeB磁石だ。私は前回の156夜で、「佐川博士の発明は世界を変えた」と書いた。本当にそう思う。なぜなら現代文明は、EV、ロボット、ドローン、風力発電、AI冷却設備、半導体製造装置、全てがネオジム磁石無しには成立しないからだ。


そして中国が世界を支配した


 問題はここからである。日本は磁石を発明した。しかし中国は、レアアース分離、精製、磁石製造、サプライチェーンを支配した。つまり、「資源」ではなく「工程」を支配したのである。ここが極めて重要だ。私は昔から、「鉱山を持つ者より、工程を支配する者が勝つ」と言ってきた。まさに今、それが現実化している。


工程支配企業こそ真の勝者


 今後の世界で強い企業は何か。単純な資源企業ではない。また完成品メーカーでもない。本当に強いのは、工程支配企業である。例えば日本には、半導体製造装置、精密加工、材料技術、条件出し、品質安定、高純度化という「見えない技術」がある。これは単なる製品ではない。「止まらない生産ライン」を支える能力なのである。世界の工場では、一秒止まるだけで莫大な損失が発生する。だから最後に重要になるのは、信頼である。私は長年、世界116ヵ国を歩いてきたが、最終的に国際市場で最も高く評価されるのは「信用」であると痛感している。


AI革命は資源戦争を激化させる


 AI革命は、一見すると華やかで未来的に見える。だが現実には、銅、タングステン、レアアース、ニッケル、リチウム、コバルト、ガリウム、タンタルなど、膨大な資源を必要とする。つまりAI革命とは、「静かな資源戦争」でもある。そしてその争奪戦の裏側では、電力、送電網、磁石、工程支配という、地味だが極めて重要な領域で覇権争いが始まっている。


山師として見えてきた未来


 私は最近、相場を見ながら強く感じる。本当に重要なのは「AI銘柄」そのものではない。その背後にある、文明インフラである。AIは幻想ではない。だがAIだけでは文明は動かない。必要なのは、電力、資源、磁石、工程、信頼、サプライチェーンなのである。だから私は今後、「AI革命はレアメタル革命でもある」という視点が、ますます重要になると確信している。そしてその本質を理解した者だけが、次の時代の勝者になるのだ。

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