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2026.01.29

レアメタル千夜一夜 第114夜 日本の3R問題の本質

はじめに


 日本の3R(リサイクル=Recycle、リユース=Reuse、リデュース=Reduce)は、持続可能な社会の構築と、激変する資源・エネルギー環境への対応という両輪を担っている。都市鉱山という誤解しやすい言葉が一人歩きしているのが気になる。


 特に希少金属・レアアースを巡る世界の需給緊張が増す中で、日本が抱える「国内資源循環」の意義はますます高まりつつある。だが、2025年時点で公開されているデータをもとに日本国内の需給に対する影響を定量的に検証すると、量的なインパクトは極めて限定的なものにとどまっている。一方で、リデュース技術に関しては品質や依存構造を変える“質的変革”の段階に入っており、とりわけNdFeB磁石におけるDy/Tb削減は日本技術の強みを如実に示すものである。それでは、日本の3Rの現状と課題を改めて整理し、その背景・制度・技術トレンドまで掘り下げてみたい。


1. 日本の3Rの現状


1.1 リサイクルの実績


 まず、リサイクルの面から見る。日本で小型充電式電池(以下「小型LiB」等も含む)がどの程度回収・再資源化されているかを、最新データから確認すると、一般社団法人 JBRC が報告する2024年度(2024年4月1日~2025年3月31日)の回収量は、全電池合計で1,391.8トンであり、その内リチウムイオン電池が510.0トン、再資源化率は53%である。


 回収された510トンの小型LiBから推定される金属含有量の試算では、リチウム(Li)約31.6トン、コバルト(Co)約65.3トン、ニッケル(Ni)約16.3トンという数字が得られている(化学ミックス・含有率の仮定による)。これを2030年政策目標である国内必要量(例:Li 10万トン、Co 2万トン、Ni 9万トン)と照らしてみると、Liでは約0.03%、Coで約0.33%、Niで約0.02%と、いずれも極小の比率であることが分かる。


 こうして見ると、現状のリサイクルによる金属 “供給オフセット” 効果は、量的には非常に微弱であり、「リサイクルで一次資源採掘を大きく代替できる」という語り口には、今はまだ慎重であるべきである。また、回収スキーム自体にも構造的な課題が見え隠れしており、例えば「会員外製品」「破損・膨張電池」「輸入製品電池」の回収対象外となるケースが一定数あり、自治体側での回収ルートが十分とは言えないという報告もある。さらに、回収量・再資源化率が伸びてはいるものの、量としては世界需要や国内必要量に比して甚だ小さいため、リサイクル単体で需給構造を変える、というには“まだ時間”というのが率直な実感である。


1.2 レアアースの現状


 次に、レアアース、特にNdFeB磁石を巡る3Rの状況を見てみよう。国内大手企業(例:Toyota Motor Corporation)が使用済み磁石の再資源化を公表しており、同社では使用済み磁石7.0トンを再資源化したというデータがある。一方で、国内におけるNdFeB磁石需要量は推計7,500トン/年程度という民間資料もあり、仮に7トンの回収を全量国内需要向けに供給できたとしても、需要に対しての再利用率は約0.09%にとどまる計算となる。


 さらに、廃家電・自動車解体ルートから磁石を効率的に回収・分別する実証態勢は未だ途上であり、特に解体・分別コストや回収インセンティブの整備が進んでいない。 このように、「量」の観点から見れば、レアアース磁石のリサイクルによる国内供給力の向上は、現段階では限定的である。ただし、「回収して即使える」磁石形態まで含める “短ループ” を構築できるか否かが、将来の需給構造における分岐点となる。


2. リデュース技術の効果


2.1 Dy/Tb使用量の削減


 リデュース(使用量削減)の観点から、日本企業の取組に注目したい。特にNdFeB磁石に含まれる重希土、すなわちディスプロシウム(Dy)・テルビウム(Tb)を減らす技術が進展しており、この「質の変化」は国内の資源依存構造を変える可能性を持つ。具体的には、日本のある磁石メーカーが採用している「粒界拡散」技術により、Dy使用量を30〜50%削減するという実績を公表している。これにより、従来Dy依存であった高耐熱磁石を、Dy量を大きく抑えた形で同等性能を維持することが可能となってきた。


 このような動きは、一次資源採掘国偏在リスク(特定国の輸出制限等)に対し、製品設計/材料設計の段階から対応を掛けているものと言える。つまり、回収して金属を補うという “後追い” に対し、「そもそも使う量を減らす」アプローチが、量的インパクトは小さくとも、供給構造の変化として重要な役割を果たしているのである。


 また、こうしたリデュース技術の進展は、製造業・モーター業界・家電業界とも密接に関わっており、日本が持つ磁石・モーター設計の強みを資源安全保障という文脈で活かしている。分析の観点から言えば、リデュースは「投入量削減=素材費抑制+依存軽減」という二重の効果を持つため、「量」以上に「質」の変革を伴う。


2.2 政策と技術支援


 技術だけでなく制度・政策支援も動き出している。例えば、国の公的機関である NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、“廃ネオジム磁石等からDy/Tbを分離・精製する技術開発事業”を推進しており、将来的な“二次重レアアース自給”を標的に据えている。ただし、中間評価では「廃磁石スクラップの想定排出量・回収ルートが十分明確ではない」「コスト競争力を持つ国内プロセスの実装が遅れている」といった課題も指摘されており、制度実装と量産スケールのギャップが存在する。


 こうした政策+技術支援の組み合わせは、“量”をすぐに劇的に変えるものではないが、2025年以降の“質的インフラ”整備という点では極めて重要であり、むしろ「量より質」の転換期にあると言える。


3. リユースの位置づけ


 リユース(再使用)という視点も見逃せない。モーターや駆動系部品、家電のモジュール化された部品群が、設計段階から“リユース=長寿命・修理可能・モジュール交換”を前提に作られるようになってきており、用途後の部品を回収・再製品(リマニュファクチャリング)化する流れが徐々に広がっている。


 このリユースの意義は、「新品材料投入を遅らせて需要を平準化する」ことで、結果として一次金属の投入ピークを抑制するという効果を持つ。つまり、回収/再資源化が遅れたとしても、設計・再使用段階で材料投入サイクルを延長できる点で、需給構造に“緩衝材”を提供する役割を果たす。ただし現状を見ると、国内におけるモーター/駆動系部品のリユース率や、回収・再製品化体制(物流・分解・検査・再製造)の整備はまだ“初期段階”にある。量的にはまだ限定的ながら、価格ショックや材料制約が顕在化する将来に向けて、設計からリユースを視野に入れた部品戦略は確実に注目を集めている。


4. 政策・制度の課題


4.1 小型電池回収スキーム


 日本では、JBRCを中心に小型充電式電池の回収制度が構築されており、回収拠点の設置、協力店・協力自治体ネットワークの整備、回収キャンペーン等が進められている。しかしながら、離島・山間部など物流コストが高い地域では回収頻度・アクセスに制約があるほか、自治体によっては回収対象が限定されていたり、回収対象電池の区分が曖昧であったりする実態が報告されている。


 たとえば、自治体によって「協力店に持ち込む」「回収ボックスを設置」という仕組みが異なり、回収対象外となる電池(膨張・損傷・輸入製品など)が“置き去り”になっている。このため、量的拡大という観点では、「回収網のカバー率向上」「インセンティブの整備」「回収後の分別・輸送・再資源化プロセスの効率化」が次のステップとして不可欠である。


4.2 使用済み自動車(ELV)・モーター解体と磁石分別


 3Rの観点から、使用済み自動車(ELV)やモーター/家電の廃棄段階で「磁石・電池を分別して回収できるか」が重要な制度課題である。日本では、モーターや磁石を搭載した家電や自動車が解体段階で“材料単位”まで分別されていないケースが少なくない。たとえば、家電リサイクル工場で「磁石搭載モーターの比率」の実調査があり、回収可能性が示唆されているものの、分解コスト・運搬コスト・材料純度確保というハードルが残る。 また、磁石回収を国内で完結するための技術・コスト面の課題も明記されており、国外へのスクラップ輸出が継続しているという指摘も存在する。 従って、制度・実装面では「解体設計・回収ルート・分別基準・物流体制・再資源化処理能力」の5つの柱を一体化させていく必要がある。


5. 結論と今後の展望


 総じて言えば、日本の3R施策は方向としては正しい。特にリデュース技術の進展は、量以上に“質”の改善を通じた競争優位・資源安全保障という観点で非常に重要である。しかし、量的側面から国内需給に与えるインパクトは、現時点では「可視的な数値変化」として捉えるには十分ではない。金属需給に対して0.0X〜0.3%という値のインパクトでは、価格形成や供給構造を左右するまでには至っていない。今後10年〜20年を見据えると、以下のような展開が考えられる。


・廃電池・廃磁石の“山”が来る:EV・家電・モーターのライフサイクル(10〜20年)を考えると、2030年代前半以降に使用済み部材がまとまって出てくる可能性が高い。これが“二次資源の量”を劇的に押し上げる転換点となる。
・短ループ化の実現:磁石→再合金→再焼結、電池→ブラックマス→正極材という“素材起点”の国内短ループが整備されれば、量的な寄与は飛躍的に高まる。
・リデュース+リサイクルの相乗効果:使用量削減(Dy/Tb削減)×回収量増加という組み合わせで、一次資源への依存削減は量と質の両面で加速する。
・国内制度・物流・技術が国際優位に。日本が“素材安全保障”を国家戦略と捉え、政策・産業連携を強化すれば、量的影響も次第に大きくなっていく。


6. 次アクションの提案


1.短ループ化の推進:磁石・モーター・モジュールといった“使用済み材”から直接再合金・再磁石を製造できる国内回収・処理・製造ラインの構築。解体→分別→再合金化/再焼結というプロセスを国内で完結させる。
2.回収密度(KPI)設定と拡大:JBRC回収網をさらに拡大し、回収協力店・自治体・物流業者・製造業者による役割分担を明確化。離島・山間地域も含めた回収率の目標値を設ける。
3.設計段階からのDy/Tb最適化を国内規格化:製造・設計段階で「Dy使用量削減率」などをKPIに据えて、サプライヤー間・部品メーカー間で共有できる共通仕様とする。
4.制度・法整備の加速:回収対象外製品の整理、自治体回収ルートの明確化、分別基準の整備、回収インセンティブ策の拡充。環境省・経産省・資源エネルギー庁等が協調して推進を。
5.データ基盤・実績公開の強化:回収量・再資源化率・含有金属量・再利用材投入量などを定期的に開示し、量的進捗をモニタリング可能にする。これにより、3Rの“見える化”を図る。


参考文献


・一般社団法人 JBRC「2024年度自主回収の実施の状況」
・新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO「部素材からのレアアース分離精製技術開発事業」
・経済産業省 「令和4年度地球温暖化問題等対策調査(我が国における資源効率性の…)」
・水戸銀行産業調査部 「非鉄金属レポート2025年5月30日」

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