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2025.10.08

レアメタル千夜一夜 第82夜 闘病記特別寄稿 Part3 戦いの末に得た再生と新しい人生観

11時間の死闘 ― 手術台の上での再生への賭け


 私は2025年9月17日、大腸がんの切除と肝臓がん転移巣の摘出という大手術を受けた。大腸の20センチを切除し、肝臓に転移した9箇所の腫瘍を削除するという、合計11時間以上に及ぶ壮絶な戦いであった。術後の最初の数日は、まさに生死の境をさまようような感覚であった。全身麻酔から覚める瞬間、意識が深い霧の中にあり、再び目を開けられるのかという恐怖に包まれた。麻酔が切れていくにつれ、肉体を襲う鋭い痛みと、動かぬ身体への苛立ちが押し寄せた。ベッドに横たわりながら、私は「再生」と「喪失」の狭間で揺れ動いていたのである。


孤独と絆 ― 病室で得た新しい仲間たち


 術後の初日、私は身体をまるで鉛の塊のように感じ、ただ寝返りを打つことすら困難であった。医療スタッフの支えは温かく、献身的であったが、それでも心の奥には孤独感が忍び寄った。しかし日を重ねるごとに、同じ病棟に入院する患者たちとの会話が私を支えるようになった。病室の窓辺で交わされる何気ない言葉や、痛みと戦う者同士の目配せは、私にとって何よりの励ましであった。がんという共通の敵を前にした時、人は不思議と垣根を超えて絆を結ぶ。その絆は、孤独を溶かし、再び立ち上がる勇気を与えてくれる力に変わったのである。


不眠の壁 ― 夜の暗闇と闘う


 術後最大の難敵は「眠れない夜」であった。痛みと不安が重なり、深夜になっても目が冴え渡る。体力の回復には睡眠が不可欠であることを知りつつも、眠剤を服用しても浅い眠りしか得られない夜が続いた。その苛立ちは、私の精神を追い詰めた。しかし12日目の夜、不思議と心が静まり、ようやく深い眠りに落ちることができた。その朝、目覚めた時の身体の軽さは言葉にならないほどであった。まるで再生のスイッチが入ったかのように、心も身体も一歩前へ進む兆しを見せた瞬間であった。


レアメタルが支える医療の現場


 この闘病の中で、私はレアメタルの存在をあらためて強く意識した。手術に使用された器具やインプラントには、チタンやジルコニウムといったレアメタルが活躍していた。チタンは軽量でありながら強靭で、生体親和性にも優れる。メスや鉗子といった外科器具に用いられることで、医師は精密な操作を可能とし、出血や組織損傷を最小限に抑えることができる。ジルコニウムは耐食性が高く、長期にわたり体内で安定して機能する。これらの特性が、私の命を救い、回復を早めたことは疑いようがない。


 私は長年レアメタルに携わってきたが、商材としての視点だけでなく、自らの命を支える存在としてその価値を体感したのは今回が初めてである。資源としての希少性以上に、人類の命を守るという文脈で、レアメタルの意味を深く理解することとなった。


闘病がもたらした人生観の変化


 手術の成功と回復は、単なる肉体の再生ではなく、私に新たな人生観を与えた。これまで私は仕事に生き、挑戦に生きてきた。時に自己中心的で、人への思いやりを後回しにしてきた面も否めない。しかし、闘病を経た今、私は「人とのつながり」こそが人生を支える根幹であることを痛感している。病室での仲間との対話、医療スタッフの献身、家族や孫たちの見舞い。これらの温もりがなければ、私は術後の苦難を乗り越えることはできなかったであろう。人は一人で生きているのではなく、多くの絆に支えられて生かされている――その事実を私は全身で学んだのである。


感謝と次なる旅路へ


 私は今、再発の恐怖を抱えつつも、少しずつ日常を取り戻しつつある。食事の味わい、朝の光、家族との笑い声。その一つひとつがかけがえのない宝であることを、病を経て初めて実感した。そして私は決意する。この経験を胸に、同じように病と闘う人々に、少しでも勇気を伝えたい。レアメタルが医学に寄与するように、私の体験もまた誰かの希望の一助となることを願っている。


 この特別寄稿は、一つの折り返し地点である。再生した身体と心で、私は再び「レアメタル紀行」に戻る準備を整えた。資源の世界は広大であり、まだまだ語るべき物語がある。だがその旅は、もはや単なる経済や産業の視点だけではなく、「人と命をつなぐ物語」としての新しい意味を帯びることになろう。


結びに


 11時間の大手術を経て、私は再生した。肉体はまだ完全ではないが、心は確かに強くなった。孤独を知り、絆の力を学び、そして命を支えるレアメタルの真価に触れた。このすべてが私に新しい人生観を与えてくれたのである。私は再び歩き出す。再生の身体と感謝の心を携え、次なる旅へと。

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