お知らせ
2025.09.22
世界レアメタル紀行のブラジルの次はボリビアとペルーだ。南米の鉱山開発の歴史はスペインの鉱物支配から独立する歴史が心を打つ。シモンボリバルの名前を取ってボリビアが独立したが、彼がベネズエラもコロンビアもエクアドルもペルーも独立を指導した。一方サンマルティンはアルゼンチン、チリ、ペルーの独立を達成させた英雄である。
北米と南米の鉱物資源は同程度だが政治体制と民主化の遅れが差をつけたとの見方もある。しかし、先般死去したウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領やキューバのカストロやチェゲバラ、ペルーの日系人大統領のアルベルトフジモリ氏などの政治家としての哲学は素晴らしいと思う。日本の金満政治家も少しは爪の垢でも煎じて飲めば良いと感じている。
ボリビアとペルー ― 高地に眠る資源と銀の国の財宝
アンデスの風に誘われて
南米大陸の中央部に位置するボリビアと、その西隣に広がるペルー。この2カ国は、古代インカ文明の遺産と共に、豊かな地下資源を抱えている。私がこの地を初めて訪れたのは、若き日の放浪時代であった。当時のボリビアは政情不安に揺れ、ペルーは鉱業大国としての歩みを強めていた。アンデスの高地を巡る旅は、過酷でありながらも、鉱物資源が人類の未来を支えることを強く実感させるものであった。
ボリビア ― 革命の地に潜むレアメタル
苦い入国の記憶
ブラジルから列車に揺られ国境を越えた私は、ボリビアの現実に直面した。ブラジルから米国に向かうルートを中南米諸国を選択したが第一ヶ国目がボリビアでコルンバ経由で入国した。1973年当時は日本赤軍派による事件が世界を震撼させており、私だけが国境検問で不審視され、荷物を没収される憂き目にあった。検問室の拷問設備を見たので先ず逃げる事しか考えなかった。途方に暮れた末、コチャバンバの日本領事館に救いを求め、ようやく事なきを得たが、毎年のようにクーデターが起こる不安定な国情を肌で感じる体験であった。
コミュニティの温もり
コチャバンバでは日本人移住者に迎えられ、アマゾン川上流で獲れたピラニアや川魚を振る舞って頂いた。その淡白で滋味深い味わいは、異国での孤独な心を癒してくれた。いまだにコチャバンバの日本人移住者の魚の煮付けをもう一度食べたい。来年には南米大陸一周の旅を計画しているので是非ボリビアの沖縄コロニーを訪れたい。人の情けが旅の記憶をいっそう鮮やかにすることを、このときほど実感したことはない。
高山病との闘い
その後、首都ラパスへ向かうバスは、標高4,000メートルを超える高地を進んだ。酸素の薄さに頭痛と吐き気が襲い、体が鉛のように重くなる。まさに自然の試練であった。だが、その苦しみの先に広がるラパスの街並みは、まるで天空都市のように荘厳であった。
ウユニ塩湖 ― 白銀の大地に眠る未来
ボリビアを象徴する資源といえば、やはりウユニ塩湖である。果てしなく広がる白銀の大地の下には、世界最大級のリチウム鉱床が眠っている。電気自動車やスマートフォンを支えるリチウムイオン電池の需要は拡大の一途をたどり、この湖は「未来のサウジアラビア」とも称されている。
ウユニの資源は以下の通りである。
•リチウム:世界最大規模の鉱床。次世代エネルギー社会の要。
•塩:食用・工業用として古来より採取される。
•ポタッシュ(カリウム塩):農業用肥料として重要。
だが、この開発には課題が多い。地域コミュニティの生活との共存、そして塩湖の生態系保護である。資源開発が未来の希望である一方、持続可能性を欠けば破壊へと転じる危険も孕んでいる。
ペルー ― 銀の国の重み
インカ文明の影と光
ペルーを訪れた際、私はリマの天野博物館で、インカ文明に情熱を捧げる天野館長と出会った。彼の語りは、鉱物資源が単なる富の源泉ではなく、歴史と文化を形づくる重要な要素であることを教えて頂いた。金や銀の装飾品は、かつては権力と信仰の象徴であり、今も人類史に輝く遺産である。
鉱業大国の現実
現代のペルーは、世界有数の銀と銅の生産国である。アンデスの鉱山は標高4,000メートル級に位置し、厳しい自然条件のもとで採掘が行われている。帰国後、三井鉱山に勤めていた高山氏から、ペルー鉱山での過酷な労働と、現地労働者の生活ぶりを聞いた。酸素の薄い環境で重労働を強いられる姿は、資源が持つ光と影を象徴していた。ワンサラ鉱山への訪問の機会は当時は流れたが、日本帰国後に日本イットリウムの角社長からワンサラの地獄のような環境を恨み節も含めて勉強させて貰った。
ペルーの主要資源
•銀:世界最大級の生産量を誇る。
•銅:電気産業・建設に不可欠。世界トップクラスの供給力。
•金:アマゾンやアンデスで採掘され、経済成長を下支え。
•リチウム:近年新たに発見され、開発が期待
•タンタル・ニオブ:小規模ながら特殊用途に期待される
ペルーは鉱業収益を経済発展に結びつけつつ、環境保護と住民の権利擁護という難題に直面している。資源開発と持続可能性のバランスを取れるかどうかが、未来を決定づけるであろう。
まとめ アンデスに残る問い
ボリビアとペルーを巡る旅は、資源の豊かさと、その背後に潜む政治的不安や労働の厳しさを私に教えた。レアメタルは未来のテクノロジーを支える宝であると同時に、人間社会の課題を映し出す鏡でもある。
次の77夜では、世界最大の銅生産国チリに焦点を当て、その新たな挑戦を探ることとしたい。