お知らせ

2025.08.25

レアメタル千夜一夜 第71夜 終戦80年の今日、資源から見る日本の歩み②

 1985年に筆者はニューヨークに出張した。日本のバブル景気の真っ只中で銀座鳩居堂前の地価がハンカチ1枚が1億円と評価された時期であった。ニューヨークのロックフェラーセンターを三菱地所が買収した時期だったと記憶している。「ジャパンマネーがアメリカの魂を買った」とも言われた時期である。以下に1986年から2025年までの第二部を書き進める。


第二部 1986〜2025年 冷戦後の激動と資源新時代


冷戦終結とグローバル資源市場


 1986年以降、冷戦構造が崩れ、中国や旧ソ連圏の資源市場が一気に開放された。日本企業はロシアのニッケルやアルミ、中央アジアのウラン、南米のリチウムなど新たな鉱脈を求めて進出した。しかし1990年代後半、アジア通貨危機と資源価格の急落が起こり、長期契約に依存する日本の調達モデルは逆風にさらされた。現地での権益取得に踏み込めなかった案件も多く、「資源メジャー」と呼ばれる欧米企業との差が明確になった時期であった。


中国の台頭とレアアース支配


 2000年代、中国は世界のレアアース生産の90%以上を握る資源大国となった。価格や輸出量を自国政策でコントロールし、世界市場を実質的に支配した。2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事件後、中国が日本向けのレアアース輸出を停止したことは、日本産業界に大きな衝撃を与えた。この事件を機に、南鳥島EEZのレアアース泥や海底鉱物資源の調査、リサイクル技術の研究開発が本格化したが、商業生産には至らず、中国依存は残った。


 筆者は当時、南鳥島資源のサンプル採取計画に関わった関係者から話を聞いたが、「採掘コストと商業化の壁」が最大の課題であったという。資源が存在するだけでは戦略にはならず、掘り出して流通させて初めて意味を持つことを痛感した。


脱炭素時代と資源の再定義


 2015年のパリ協定以降、世界は脱炭素化に舵を切った。EVや再エネ設備の急拡大に伴い、リチウム、コバルト、ニッケル、銅などの需要は爆発的に伸びた。これらはもはや単なる産業材料ではなく、21世紀の戦略資源である。しかし供給は偏在しており、リチウムは南米「リチウム・トライアングル」、コバルトはコンゴ民主共和国、ニッケルはインドネシアやフィリピンに集中している。新しい「資源地政学」は、石油時代以上に複雑化している。


米中対立と資源ブロック化


 2018年以降の米中貿易戦争は、半導体やバッテリー材料の供給網に直接的な影響を与えた。米国は中国以外の調達ルート確保を同盟国に求め、日本もその対象となった。アラスカ天然ガスや南鳥島レアアース泥は、日本が米国と戦略的に組める数少ない資源カードである。これらを外交交渉の武器として活用できれば、日本の国際的地位を高める可能性がある。


2025年 ― 外圧を機会に変える時


 終戦から80年、日本は「資源ゼロ」の国から世界屈指の資源消費大国へと変貌した。しかし供給の脆弱性は依然残り、世界の資源ブロック化は進む。今こそ、日本は資源確保を外交・産業戦略の中心に据え、外圧を単なる脅威ではなく交渉力に変える革新的な発想を持たねばならない。歴史が示すのは、危機のたびに資源戦略を進化させた国こそが、次の時代を切り開くという事実である。


忘れ去られた30年の原因


資源戦略の不在


 冷戦終結後の30年間、日本は短期的な利益を重視し、資源戦略を後回しにしてきた。資源が国際政治や経済において重要な役割を果たすことを認識するのが遅れ、長期的な視野に立った戦略が欠如していたことが大きな失策である。特に、アジア通貨危機やリーマンショックに直面した際、適切な資源確保の手立てがなかったことが、後の市場変動に対する脆弱性を生んだ。


短期主義と経済依存


 日本企業は、安価な外国資源に依存し続ける姿勢を変えなかった。そのため、国外市場での競争力を失い、リスクが偏在する構造の中で、経済的依存が深まった。特に、中国に対する依存が強まる中で、日本は自国の資源調達の多様性を築けず、リスクヘッジの重要性を軽視していた。


技術革新の遅れ


 資源獲得に向けた技術革新も追いつかなかった。例えば、リサイクル技術や代替材料の研究開発が進まなかったことは、日本のイノベーション能力を低下させた。リチウムやニッケルなど、新しい資源が登場する中で、競争力を維持するためには、迅速な技術革新が不可欠である。日本は「技術大国」としての地位を失いつつあるのに対し、中国はリーダーシップを確立した。


結論


 1986年から2025年にかけて、日本の資源戦略は多くの試練を経験している。冷戦後の市場開放がもたらした機会を最大限に活かせず、国内外の政治経済の変化に柔軟に対応できなかったことが、忘れ去られた30年の原因である。しかし、今は再び新しいチャンスが訪れている。資源の確保を戦略の中心に据え、外部環境を利用することで、日本は次の時代を切り開く可能性がある。歴史が示す教訓を胸に、我々は新たな資源時代を迎える準備を整えなければならない。

関連画像

Back