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2025.08.18

レアメタル千夜一夜 第65夜 新トランプ関税と80兆円の攻防 ― 資源外交の鉱脈を掘り当てる逆転戦略 ―

筆者の目で見る日米交渉


 鉱山師が新たな鉱脈を発見したとき、まず行うのは掘削ではない。鉱脈の価値、採掘の難易度、必要な資金と人員を冷静に見極めることである。今、日本が直面している80兆円規模のトランプ前大統領の新関税交渉は、この鉱脈探索と同じ構図である。表面には黄金のような利益の輝きが見えるが、その下には落盤や水没といった危険が潜んでいる。


 歴史は同じ場面を何度も見せてきた。江戸時代の長崎出島貿易、明治期の不平等条約、戦後の繊維交渉やプラザ合意。大国との取引は、表向きの友好の裏に必ず利権と主導権争いが隠れている。今回も例外ではない。


80兆円投資の真の意味


 トランプ大統領が提示する80兆円投資は「経済協力」や「雇用創出」という美しい言葉で飾られているが、その利益配分は米国90%、日本10%とされている。これでは坑道を掘るのは日本、掘り出した金塊を持ち去るのは米国という構図である。


 日本がこの巨額を動かすなら、少なくとも三つの国益を達成する必要がある。第一に、半導体やレアメタルなど国家の生命線となる戦略物資の安定確保である。第二に、日本企業が米国内でのプロジェクトに直接参画し、現地雇用を生みつつ自国製品の販路を拡大することである。第三に、ハイテクや再生可能エネルギー分野での共同開発による技術優位の確立である。


投資の使い道は戦略的に


 80兆円の資金は無計画に流してはならない。ハイテク共同ファンドを設立し、AIや量子コンピュータ、レアメタル応用技術などの次世代産業に集中させるべきである。また、米国の港湾・鉄道・送電網などのインフラ整備に参画し、日本の建設・エンジニアリング企業の活躍の場を広げるべきである。さらに再生可能エネルギーや水素インフラ、省エネ技術を軸にした長期的なエネルギー協力も不可欠である。


不公平な利益配分の是正


 「米90%、日10%」という条件を受け入れれば、日本は巨額の資金を失い、得られる果実はわずかしか残らない。不平等条約の構造は、資源貿易の歴史でも繰り返されてきた。安く原料を供給させ、高く加工品を売りつける形は、19世紀の植民地貿易から現代まで続いている。


 これを避けるため、日本は交渉で収益50%ずつの原則を明文化し、日本企業の参画を義務化する必要がある。また米国市場での関税や規制を緩和させ、日本製品が公平に競争できる環境を確保しなければならない。


米国債売却という切り札


 日本は世界最大級の米国債保有国であり、その事実自体が交渉力となる。米国債を一度に大量に売却すれば市場は大きく揺れる。これを無闇に行う必要はないが、段階的な売却計画を持つことで、米国に対して日本が本気であることを示すことができる。


 第一段階では10兆円規模を売却し、米国の反応を見る。譲歩がなければ第二段階で20兆円を追加売却し、最終的に必要とあれば残りも売却する。これは市場混乱を避けつつ、交渉での圧力を維持する方法である。


地政学的背景を読み解く


 この交渉は単なる日米二国間の問題ではない。米中対立という大きな地政学的背景の中で進んでいる。米国は同盟国にも負担を分担させ、自国の産業と安全保障を守ろうとしている。一方で中国はレアメタルや製造拠点を武器に供給網を自国優位に組み替えようとしている。日本はその狭間で、どちらにも依存しすぎない独自の戦略を構築する必要がある。


情報戦で優位に立つ


 交渉を有利に進めるためには感情論ではなく、数字と根拠に基づく戦略が必要である。米国にとっても、日本の投資が米国のGDPや雇用にどう寄与するかが重要な判断基準になる。日本は定期的な首脳・閣僚級の会談を持ち、経済・外交・安全保障の専門家による分析を交渉材料に組み込み、米国内でも支持を得られる提案を示すべきである。


鉱脈を掘り当てるために


 80兆円の交渉は資源外交の鉱脈掘削に似ている。掘り方を間違えれば落盤の危険に晒され、莫大な資金と時間が失われる。しかし正しい戦略で進めれば、その鉱脈は日本と米国双方にとって黄金の源泉となる。


 筆者として言わせてもらえば、この交渉は単なる経済取引ではなく、国家の将来を左右する坑道掘削である。掘るべき方向を誤らず、危険を避けながら進められるかが、日本の外交力と経済戦略の真価を決めるのである。

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