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2025.08.18

レアメタル千夜一夜 第64夜  ~中国とロシアの架け橋を夢見たレアアース原料の世界漂流事件~ Part❷

 第1章から第4章までは中国レアアースとロシアのレアアースの変遷を前回の63夜に記述した。今回の64夜は中国の友人からロシアのレアアース原料を手配してほしいとの要求があったので、契約条件は未定であったが委託加工契約も考えられたので、軽い気持ちでロシアのレアアース原料を中国甘粛省への納入契約を結んだ失敗の経験である。


第五章:甘粛省からの依頼:運命の歯車が動き出す


 1993年、中国甘粛省の友人からレアアース原料不足の窮状を訴えられた。甘粛省には、白雲鄂博鉱山のような大規模なレアアース鉱山はなく、零細鉱山が点在していた。改革開放政策の影響で地方企業のレアアース生産が活発化していたが、原料不足は深刻な問題であった。友人は、工場の操業停止の危機を回避するため、筆者にロシア産レアアース原料の供給を依頼した。筆者は当初、白雲鄂博鉱山に近い甘粛省でロシア産原料が必要な理由に疑問を抱き、依頼を断ろうとした。しかし、友人の必死の懇願に心を動かされ、8コンテナ限定でロシア産レアアース原料を供給することに同意した。この時の決断が、後に大きな波紋を呼ぶことになるとは、筆者は想像もしていなかった。


第六章:引き取り拒否、そして世界漂流の始まり


 ロシアのソリカムスク工場との交渉の結果、炭酸希土混合物を8コンテナ(約160トン)購入することになった。しかし、水分が多く、実際のレアアース酸化物(REO)ネットの含有量はREO 20トン以下であった。貨物はウラル地方からシベリア鉄道で満州里経由で甘粛省まで輸送されたが、コンテナに放射性物質のマークが貼られていたため、税関が輸入通関を認めず、引き取りを拒否した。甘粛省との交渉は埒が明かないので他の中国のレアアース分離工場と交渉を試みたが、税関経由で情報が拡散し、どこも許可を出してくれなかった。当時の中国では賄賂が横行していたが、筆者は断固として拒否した。結果として、8コンテナのレアアース原料は行き場を失い、世界漂流を始めることになったのである。


第七章:大連港での足止めと出口の見えない状況


 行き場を失ったレアアース原料は、大連港に輸送され、港湾倉庫に保管されることになった。外貨から内貨に転換したが、貨物は1年半もの間、倉庫に留め置かれた。運輸部の担当者O氏とS氏には何度も現地出張をして貰ったが、事態は好転しなかった。


 ロシア側にも再三に渡り引き取りを交渉したが、放射性物質の取り扱いが厳格化していたため、受け入れを拒否された。大連港倉庫からは強制的な出荷命令が出され、筆者は窮地に立たされた。無価値の損失取引も検討したが、中国内の買い手は見つからなかった。経費は膨らみ続け大損失を覚悟したものの事態は悪化の一途を辿った。


第八章:エストニアでの光明と2年間の漂流の終焉


 出口の見えない状況の中、1年間が経過した頃にエストニアのSilmet社から仮置きを引き受けるという連絡が入った。タリン港に貨物を入港させ、現場検証を行った後、ロシアのソリカムスク工場に返送するという計画であった。シベリアランドブリッジはこれ迄の税関と鉄路省との交渉が頓挫した為、大連から韓国の釜山港ルートで南周りでバルト海ルートしか選択肢は残っていなかった。海運法令に沿ってドラム缶の表示は換えて放射性物質マークも消した。エストニアの元首相V氏に協力を依頼してSilmet社での再処理が実現した。こうして、2年近くにも及ぶレアアース原料の世界漂流は、ようやく終わりを告げた。外交問題に発展することなく解決できたことは、不幸中の幸いである。


第九章:新人社員の試練と中国ビジネスの難しさ


 この一連の困難な業務は、新人社員のS君とK君に任された。S君は貴重な経験を積むことができたが、責任感の強いK君は、精神的に大きな負担を抱え、心を病んでしまった。幾ら筆者の決めた取引きだから責任は全て決定者にあると慰めたが普通の日本人社員には耐えられない漂流事件であった。天安門事件後の中国は社会が混乱し、裏交渉が横行していた。また、ソ連崩壊後のロシアはハイパーインフレと賄賂が蔓延していた。このような状況下でのビジネスは、新人社員にとって余りにも大きな試練であった。


エピローグ:レアアース戦略の重要性と日本の反省


 1993年から約30年が経過した現在、レアアースはハイテク産業に不可欠な素材であり、その戦略的重要性は飛躍的に高まっている。資源ナショナリズムの台頭、環境問題への意識の高まり、国際的な競争の激化など、レアアースを取り巻く環境はますます複雑化している。


 1993年当時、日本はレアアースの重要性を十分に認識していなかった。資源小国である日本は、レアアースの安定供給確保に早期に取り組むべきであった。技術を中国に提供する一方で、資源戦略を軽視してきたことは大きな反省点である。この反省を踏まえ、日本はレアアースの安定供給確保に向けた新たな戦略を構築する必要がある。循環型社会の構築、代替材料の開発、国際的な資源外交など、多角的なアプローチを通じて、持続可能なレアアース産業の確立を目指すべきである。未来の世代のために、レアアース資源の適切な管理と利用を推進していくことが、我々の責務である。

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