お知らせ
2025.08.04
ロシアは広大な国土と多様な地質により、豊富な鉱物資源、特にレアメタルレアアースを保有しており、これらは国家戦略上極めて重要な資源である。ロシアのレアアース産業の現状と将来展望について以下に詳述する。
ロシアのレアアース資源と主要サプライチェーン
ロシアの主要なレアアース供給源の一つは、既に前回報告したように北西部に位置するコラ半島のローパライトである。ロボジョーロ鉱山では、チタン、レアアース元素、タンタル、ニオブなどが含まれるローパライトが採掘されている。これらの元素は、航空機や宇宙関連、原子力潜水艦など、多岐にわたるロシアの基幹産業にとって不可欠な資源である。
ローパライトの一般的な成分比率は以下の通りである。
* チタン(Ti): 酸化チタン(TiO₂)として3%〜10%含まれる。仮に6%とすると、鉱石1億トンから6,000万トンのチタンが得られる。
* レアアース元素(REE): 1%〜数%の範囲であり、1.5%と仮定すると1,500万トンとなる。仮に100万トンの鉱石を処理すればレアアースは15万トンであり中国の寡占状態は崩れる。
* タンタル(Ta): 含有率はppmレベルであり、仮に100 ppm(0.01%)とすると1万トン。
* ニオブ(Nb): 同様にppmレベルで、200 ppm(0.02%)と仮定すると2万トン。
ソ連崩壊後のサプライチェーンの変化
ソ連時代には、これらのレアメタルのサプライチェーンが確立されていたが、ソ連邦の崩壊によって15の独立国家に分かれた結果、需給バランスの合理性が破壊されたと見られている。
* チタンのサプライチェーン: コラ半島で採掘されたローパライトは、ソリカムスクマグネシウム工場で高純度酸化チタンとして加工され、その後チタンスポンジとなる。このチタンスポンジは、ベレズニキ工場やカザフスタンのUK TMPでさらに加工され、世界有数のチタンメーカーである「VSMPO-AVISMA」社に供給される。
* レアアースのサプライチェーン: レアアースはコラ半島からソリカムスクマグネシウム工場に供給され、粗分離後に加工される。また、エストニアのシルメットやカザフスタンのイルティシュ工場にも供給される。
* タンタルとニオブのサプライチェーン: タンタルとニオブは、カザフスタンのウルバ工場とイルティシュ工場での素原料となる。
このような状況は、ロシアが資源効率の改善を強く意識する背景にある。
国家安全保障におけるレアメタル・レアアースの戦略的意義
ロシアのレアアースおよびレアメタル産業が国家安全保障と深く関与する理由は、これらの元素が現代の軍事技術や防衛システムに不可欠な材料であるためである。
* 先端軍事技術への貢献: レアアース元素は、ミサイル誘導システム、レーダー、通信機器、電子戦装置など、多くの先端軍事技術において重要な役割を果たす。特にネオジムやサマリウムは高性能磁石に用いられ、ミサイルや航空機の駆動システムに不可欠である。
* 特殊合金の製造: 航空機や宇宙機器に使用される高強度で耐熱性のある特殊合金の製造には、レアアース元素が欠かせない。これらの合金は極限環境での性能向上に寄与する。
* エネルギー効率の向上: 軍事装備のエネルギー効率向上にもレアアースを用いた技術が活用されている。特に電気駆動システムやエネルギー収集・蓄電技術において、レアアースの使用は効率性を高める要因となる。
* 戦略的資源としての重要性: 世界のレアアース供給が限られた地域に集中しているため、これらの元素は地政学的に戦略的な資源と見なされる。ロシアが自国でこれらの資源を確保し供給できることは、他国への依存を減らし、国家の自立性を保つ上で極めて重要である。安定したレアアース供給は、国際的な交渉や外交において優位に立つ手段ともなる。
ロシアのレアアース産業の将来展望
ロシア政府は、レアアース産業を国家的な戦略資源として重要視しており、持続可能な開発と技術革新を推進することで国内外での競争力強化を目指している。
* ヤクート(サハ共和国)の資源: ヤクートでは、重希土類の採掘が行われており、ペグマタイトやカーボナタイトに関連する鉱床が多い。地質学的には、古生代の変成岩や火成岩が主体である。
* トランスバイカル(ザバイカリエ地方)の資源: トランスバイカル地方では、希土類を含む鉱床の開発が進んでおり、新しい鉱床の探査が活発に行われている。火山活動による火成岩や変成岩が多く、希土類を含む鉱物が豊富に存在する。
ソ連の時代はレアメタルレアアースのサプライチェーンが機能していたがソ連邦の崩壊の結果15カ国に分かれた独立国家は需給バランスの合理性が破壊されたとの見方がある。プーチン大統領がウクライナ戦争を通じて資源効率の改善をしたいと考えるのも理解できる。逆に言えばウクライナ戦争がロシアの勝利で終結すれば次はバルト三国への侵攻が始まると考えるのはプーチン大統領にとってはむべなるかなと発想するはずだ。だからカザフスタンやキルギスタンなどの中央アジア諸国もロシアの動向に最大の注意を払わざるを得ないのである。その意味ではロシア内の複雑な事情が絡まっていることを知るべきである。
まとめ
ロシアのレアアース産業は、国家の安全保障と経済的自立を支える基盤として、今後もその重要性を増していくと予想される。環境に配慮した採掘技術の導入や、精錬・加工技術の向上が進められており、これらの取り組みを通じて、ロシアは国際的なレアメタル・レアアース市場において、さらに影響力を高めることを目指している。