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2025.06.25

レアメタル千夜一夜 第49夜 インジウムの神秘と不思議

 レアメタル千夜一夜も今回で第49夜を迎え、今回は元素番号49に因んで筆者の好きなインジウムを取り上げる。その独特な特性により現代ハイテク産業で不可欠な役割を担うこのレアメタルについて、その歴史から未来の展望までを探っていく。


インジウム命名の歴史:
インジゴの輝き


 インジウムは1863年、ドイツの化学者フェルディナント・ライヒとヒエロニムス・テオドール・リッヒターによって発見された。彼らが鉱石のスペクトル分析中に見出したインジウム特有の青いスペクトル線が、その名の由来となっている。「インジウム」という名は、インジゴ色にちなんで名付けられ、元素の持つ美しさを象徴している。


インジウムの資源分布:
世界を支える供給国


 インジウムは主に亜鉛鉱石の精錬過程で副産物として得られる。世界の主要な生産国は中国、カナダ、韓国、ロシアなどだが、特に中国は最大の生産国であり、世界の供給の大部分を占めている。このため、中国の生産動向や政策は、インジウムの国際市場に大きな影響を与える。


透明導電膜の革命: ITOの力


 インジウムの最も重要な用途の一つは、透明導電膜としての利用である。スマホのディスプレイやタブレットPCやカーナビのタッチパネルなど身近な用途に使われている。インジウム錫酸化物(ITO)は、薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)、タッチパネル、太陽電池などの製造に不可欠な材料だ。ITOが高い透明性と導電性を兼ね備えていることで、現代の電子デバイスの性能向上に大きく貢献している。


技術革新と未来の展望


 技術の進展に伴い、インジウムを含む新しい材料の開発が進んでいる。特に、フレキシブルディスプレイや次世代の太陽電池分野では、インジウムを利用した新技術が注目されており、今後もインジウムの需要は増加すると予測される。


市場動向と中国の影響


 2025年のインジウム市場は、電子産業の成長に伴い需要がさらに拡大している。ディスプレイ技術や太陽電池技術の進化が需要を牽引している。しかし、中国がインジウムの輸出を制限し輸出禁止を画策しており、これが国際市場に大きな影響を与えている。輸出制限の結果、価格がさらに急騰し、供給不足が懸念される。これに対抗するため、他国はインジウムのリサイクル技術を強化し、代替材料の開発を進めている。


インジウムの価格動向と予測


 インジウムの市況は、特に中国市場における動向が世界市場に大きな影響を与えている。


2020年から2025年までのインジウム価格動向


 2020年には比較的安定していたインジウム価格は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によるサプライチェーンの混乱で一時的に上昇した。その後、経済活動の再開に伴う需要回復により、2021年から2022年にかけて徐々に上昇。2023年には5G技術や電気自動車市場の拡大で需要がさらに増加し、価格は高騰した。2024年には中国がインジウムの輸出を制限する動きを見せ、価格上昇に拍車がかかった。2025年現在も、中国の輸出政策が市場に大きな影響を与え、価格は高止まりしている。


2025年から2028年までの価格予測


 2025年から2028年にかけても、インジウム需要の増加が続くと予想される。特に、ディスプレイ技術や太陽電池技術の進化が需要をさらに押し上げるだろう。中国がインジウムの輸出を禁止または制限し続ける場合、供給不足が深刻化し、価格はさらに上昇する可能性がある。


各国の対応策


中国の輸出制限に対抗するため、各国は以下のような対応策を進めている。
* リサイクル技術の強化: 使用済み電子機器からのインジウム回収を進めることで、一次供給への依存度を低減する。
* 代替材料の開発: インジウム需要の一部を補完できる可能性のある代替材料の開発が進められている。
* 戦略的備蓄: 各国はインジウムの備蓄を増やし、供給不安に対するリスクヘッジを行っている。
* 海外資源開発への参画: 日本や欧州は、資源の安定確保を目指し、海外の資源開発にも積極的に参画している。


 総じて、インジウム市場は中国の政策に大きく依存しており、各国はリサイクル技術の向上や代替材料の開発を通じて、供給リスクを軽減しようとしている。これらの取り組みが進展すれば、インジウムの持続可能な利用が進むことが期待される。


豊羽鉱山の想い出


 日本でもかつて、北海道の豊羽鉱山が世界No.1のインジウムの重要な供給源として役割を担っていた。インジウムの産出量は1999年(平成11年)度は89トンで世界の30%を占めていたが、坑道内の環境問題により閉鎖を余儀なくされ、数少ない日本の貴重な資源を無駄にしてしまったという思いが残る。豊羽鉱山の歴史は、資源確保の難しさと貴重さを改めて思い起こさせるものだ。


結論: 持続可能な未来への道


 未来を展望すると、インジウムの供給リスクを軽減するため、各国がリサイクル技術の向上や、インジウムを含む新素材の研究開発をさらに推進する可能性が高い。これにより、インジウムの持続可能な利用が進むことが期待される。特に、日本や欧州は資源の安定確保を目指し、技術革新と資源開発に積極的に取り組んでいる。
 インジウムは現代の電子産業において不可欠な元素であり、その供給状況や技術動向は国際経済に大きな影響を及ぼすだろう。各国は、インジウムの安定供給を確保しつつ、持続可能な資源利用を進めることが求められている。このため、インジウムを巡る国際的な協力と競争は、今後も続いていくに違いない。

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