お知らせ
2025.06.25
ゲルマニウムと聞いて、昭和世代の皆さんなら「ああ、あの鉱石ラジオのゲルマニウムね」と懐かしい記憶がよみがえるかもしれない。子供の頃、電源がなくても音楽が聴けるなんて、まるで魔法のように感じたものだ。災害の多い日本にとって、電源いらずのゲルマニウムラジオはサバイバルの必需品だと信じていた時代もあった。
そんなゲルマニウムが、今や半導体や光ファイバーといった最先端技術の「優れもの」として活躍しているとは、当時の少年少女たちは夢にも思わなかっただろう。まさに時代の流れと技術の進化には驚かされるばかりである。ゲルマニウムがサプリメントに使われ、健康食品として抗がん剤のような効果があると考える人もいるようだが、さすがにそれは眉唾物の話。しかし、これもまたゲルマニウムの多様性を物語る一面かもしれない。
ゲルマニウムの特性とその重要性
ゲルマニウムは、銀白色の光沢が美しい元素で、優れた半導体特性や高い光透過性を持つ。化学的にも安定しているので、現代の電子デバイスにおいて欠かせない基幹材料としての地位を確立している。5Gネットワークの普及によって光ファイバーの需要が急増しているが、ゲルマニウムはその信号劣化を防ぎ、超高速通信を可能にする立役者である。
また、赤外線を通す特性から、軍事用センサーやサーマルカメラ、さらには監視システムにも使われ、安全保障分野でも大活躍している。このように、ゲルマニウムはインフラから安全保障、そして持続可能なエネルギー開発に至るまで、我々の生活を支える重要な役割を担っているのである。
中国によるゲルマニウム市場の支配
さて、ここで我々が直面している問題がある。習近平とトランプ大統領の貿易戦争はレアアースだけではないのだ。中国はゲルマニウムやガリウムやインジウムも交渉カードに使い始めた。ゲルマニウムの供給は中国に大きく依存しているのだ。なんと、世界のゲルマニウム生産の約70%を中国が占めているのである。このため、中国はゲルマニウム市場での価格形成に絶大な影響力を持っているのだ。中国政府は、国家安全保障や資源保護を理由に希少鉱物の輸出規制を強化しており、2023年8月には輸出許可制度を導入した。これにより、ゲルマニウムは戦略物資として位置づけられ、その管理が強化された。
ゲルマニウムの価格動向と影響
このような状況下で、ゲルマニウムの価格は急激に上昇している。中国国内では1キログラムあたり1,500ドルから2,000ドルの範囲で推移しているが、欧州市場では輸送コストや関税、供給不安が重なり、1キログラムあたり2,500ドル以上になることもある。(注1)
2024年後半にはさらに価格が大幅に上昇する時期も見られた。供給制約と世界的な需要増が複合的に作用し、市場の不安定さを示している。
地政学的リスクとサプライチェーンの脆弱性
米中間の貿易摩擦や技術覇権争いが市場の価格変動性を高め、国際的なサプライチェーンの脆弱性を深刻化させている。中国がゲルマニウムを含む重要鉱物を外交交渉のカードとして利用する可能性は常に存在し、これが市場の不安定要因となっているのだ。特に米国の産業界にとって、ゲルマニウムの安定供給は深刻な課題である。
多角的な戦略による課題への対応
そうした中で、日欧米各国は中国依存を減らすべく多角的な戦略を進めている。サプライチェーンの多様化が急務であり、カナダやロシア、フィンランド、オーストラリアなどとの連携を強化している。これにより、新たな供給源を確保し、供給の安定化と価格抑制を図ろうとしている。
また、使用済み電子機器や太陽電池からのゲルマニウム回収技術、すなわちリサイクル技術の強化も重要だ。日本企業はこの分野でリーダーシップを発揮しており、新技術の開発を進めている。さらに、ガリウムやインジウムなどの化合物を用いた代替材料の開発も進行中である。
結論: 持続可能な未来への挑戦
ゲルマニウム市場は、供給の不確実性と需要の高まりの中で多くの課題を抱えつつも、その背後には多くの可能性が秘められている。中国の資源戦略がレアアースに続きゲルマニウムにまで及んだことは、米中経済戦争における新たな脅威である。しかし、日欧米各国が協力し、多様な戦略を実行し、技術革新を推進することで、この地政学的リスクを乗り越え、持続可能な未来を築くことができるであろう。
ゲルマニウム市場の安定化と発展は、世界経済の成長に貢献し、より豊かで安心できる社会の実現に寄与する鍵となる。この挑戦を機会と捉え、共に未来を切り拓くことが求められているのだ。ゲルマニウムよ、お前もか?と嘆く声を乗り越え、我々は新しい時代の幕開けを迎えようとしている。
(注1)2025年6月現在のGe4N中国価格はUS$3,437.5/Kg 5NGeO2 中国価格 US$1,774/Kgである。