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2025.06.10

レアメタル千夜一夜 第43夜 中国レアアースの禁輸は長くは続かない

 日本の主要メディアが大きく報じた中国のレアアース禁輸措置について、現場の視点からその実態と日本の対応策を深く掘り下げていく。率直に言えば素人メディアが大袈裟に報道しているのを看過できないのである。


 15年以上前からレアアース業界では禁輸に関する情報が共有されていたにもかかわらず、限られた情報源から発信される一次情報が少なく、結果として多くの誤った情報が氾濫した経緯がある。


(中国のレアアース戦略と日本の課題)


 「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」――1992年、中国の最高指導者であった鄧小平が発したとされるこの言葉は、あたかも中国の資源戦略の象徴のように語られてきた。しかし、実際には鄧小平が機嫌よく漏らした個人的な発言に過ぎず、後のレアアース関連業界関係者がその政治的利用を強調するために引用したに過ぎないという見方もある。


 2010年頃、世界最大のレアアース生産国である中国が輸出量を前年比で大幅に削減したことは事実である。具体的には、前年比40%減、さらに下半期では前年下半期比70%減という輸出制限策を打ち出した。この時期に尖閣諸島沖での漁船衝突事件が発生し、中国はこの問題を機に、一時的に事実上の対日レアアース禁輸措置を講じた。特定の国を対象とした禁輸は世界貿易機関(WTO)違反となるため、中国は公式にはその理由として、年間輸出量5万トンのうち約2万トンが密輸されているとされるレアアースの密輸取り締まりの厳格化や、採掘・選別過程で放射性物質が発生するにもかかわらず、これを未処理で投棄している現状に対する環境対策の厳格化を挙げた。これにより、安価な中国産レアアースの価格が上昇し、国際世論に配慮して現在は若干改善されつつあるものの、供給は依然としてタイトな状態が続いている。


 当時の日本政府が朝貢貿易のような拙い交渉を行ったことも、中国を増長させる結果となったと指摘されている。ハイテク製品の製造に不可欠なレアアースの安定的な確保は、日本経済にとってまさに生命線である。中国だけでなく、いつ資源ナショナリズムが吹き荒れるか予断を許さない状況が続いているのも事実である。「持たざる国・日本」は、このレアアース問題を契機に、資源確保における根本的な課題を浮き彫りにした。本稿では、この課題に対する6つの処方箋を中心に論じる。


(レアアースはハイテク製品の“かくし味”)


 日本の製品品質がオイルショックを契機に飛躍的に向上したことは、広く知られている。その技術向上に大きく貢献したのが**レアメタル(希少金属)であり、特に軽薄短小製品の開発や環境対応技術において、日本が世界のトップランナーの地位を維持し続けているのは、レアメタルの徹底的な研究の賜物と言っても過言ではない。デジタル化が進み、最終製品自体の差別化が難しくなってきている現在においても、素材や部品の分野で日本が他国を圧倒しているのは、このレアメタルの貢献が大きい。


 現在、公式に認められている元素は112種類存在するが、日本の経済産業省の鉱業審議会は、そのうちニッケルやリチウムなど47元素から構成される31の鉱物をレアメタルに指定している。レアアースは、このレアメタルに指定されている鉱物の一つであり、ネオジムやセリウムなど17種類の金属元素に分類される。レアアースは単独でまとまって産出されることはなく、鉄鉱石やウランなど他の鉱石に混じった副産物として採取される。その含有量は極めて少なく、わずか0.01~0.02%程度である。


 また、レアアースの精錬は非常に手間がかかるのが特徴だ。例えば銅の場合、原石から3段階程度の精錬で純度98%程度まで高められるが、レアアースは800~1000段階もの精錬が必要となる。このため、中国から輸出されるレアアースは、高純度化のための追加的な鋳造が必要な、純度の低いレアアース鉱石の形であることがほとんどである。


(原点に立ち戻って冷静に見てみよう)


 米国地質調査所によると、現在の全世界の指定埋蔵量は9,900万トンであり、国・地域別の埋蔵量では中国が3,600万トン(36%)でトップを占める。次いでカザフスタンなど旧ソ連独立国家共同体(CIS)が1,900万トン(19%)、米国が1,300万トン(13%)、豪州が540万トン(6%)、インドが310万トン(3%)と続く。


 また、2009年度の世界の生産量は12万4,000トンで、国別シェアは中国が96.8%と圧倒的な割合を占めている。次いでインドが2.2%、ブラジルが0.6%、マレーシアが0.3%、その他が0.2%となっている。中国からの主要な輸出相手国は、多い順に日本が56%、米国が17%、フランスが6%である(2007年ベース)。


 1990年代までは米国がレアアースの主要生産国であったが、中国が安価なレアアースを大量に輸出し始めたため、多くの米国の鉱山が採算が合わなくなり操業を停止した経緯がある。中国産レアアースが安価である理由は、人件費が安いことに加え、前述の環境処理にコストをかけていないこと、そして中国産が中間品であることなどが挙げられる。


 これにより、他国の生産者は価格競争に勝てず、ほとんどが撤退してしまったため、結果的に中国産レアアースがハイブリッド車のモーターや携帯電話、さらには先端兵器にまで広く使われるようになった。中国はレアアースを「21世紀の戦略物質」と位置づけ、安価な輸出政策を徹底することで、市場の独占を意図的に図った側面も存在する。これと並行して、昨年問題となった中国への輸出企業の先端技術情報の強制開示も進められた。新エネルギー、自動車のモーターや電池などの技術情報の届け出を義務付ける新規制を次々と打ち出したのも、一連の国策の一環であった。


 次に、石油天然ガス・金属鉱物資源機構の「レアメタルハンドブック」によると、レアアース17金属元素の内訳とその主な最終用途は以下の通りである。
* ランタン: カメラ、レンズ、燃料電池などに使用される。
* セリウム: ガラス研磨剤、排ガス浄化用触媒として不可欠である。
* プラセオジム: 溶接作業用のゴーグルに用いられる。
* ネオジム: 家電製品、ハイブリッド車のモーターなど、強力な磁石の材料となる。
* プロメチウム: 蛍光灯の点灯管に利用される。
* サマリウム: 光ファイバーの製造に用いられる。
* ユウロピウム: テレビ、蛍光灯の発光体に不可欠である。
* ガドリニウム: 原子炉の制御棒、ブラウン管の高発色性化に寄与する。
* テルビウム: 光磁気ディスクの材料となる。
* ジスプロシウム: ハイブリッド車のモーター、電子機器に用いられ、ネオジム磁石の耐熱性を向上させる。
* ホルミウム: まだ用途開発は進んでいない。
* エルビウム: 装飾ガラス、超伝導材料として利用される。
* ツリウム: まだ用途開発は進んでいない。
* イッテルビウム: 同上。
* ルテチウム: 同上。
* イットリウム: テレビ、蛍光灯の発光体に用いられる。
* スカンジウム: 屋外競技場の照明などに利用される。


 レアアースの用途は、自動車や家電製品に留まらず、産業用機器、医療用機器、原子力関連、さらには兵器に至るまで、多岐にわたるハイテク製品に欠かせない素材となっている。鉄などの主要な金属材料や合成樹脂などの添加剤として少量加えるだけで、各種製品の性能・機能を飛躍的に向上させる特性を持つ。このため、レアメタルが産業の「ビタミン」と呼ばれるのに対し、レアアースは産業の「かくし味」と称されている。例えば、ハイブリッド車や電気自動車の大型駆動用モーターには、磁石の力を強化するためにネオジムやジスプロシウムなどが使用されている。その他にも、ハイブリッド車用のニッケル水素電池の電極材にはランタンなどが、液晶テレビのバックライトの蛍光体にはイットリウムやテルビウムが、排ガス浄化装置やガラス研磨剤にはセリウムが不可欠である。これらの用途開発の多くは日本が主導してきたものである。レアアースは表舞台に登場することは少ないが、日本のハイテク技術を支え、国際競争力の隠れた源泉となる重要な存在であり、今後も続々と新たな用途が開発されると予想されている。


(日本に問題解決の抜本策はあるか?)


 資源ナショナリズムが騒がれたのは何も今回に限ったことでさない。メディアの報道を鵜呑みにして騒いでも何の得もない。日本にはリサイクル技術もある。国家備蓄もある。豪州やベトナムや中央アジアからの原料ルートもある。環境技術はあるが放射性物質の処理問題は工夫が必要だ。その為の具体策をPart2に示してみたい。

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