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2025.05.13

レアメタル千夜一夜 第36夜 太陽光発電市場の製品安と原料高という二極化がもたらす混乱

 太陽光発電市場は、再生可能エネルギーの需要が急速に高まる中で、技術革新や市場拡大を遂げている。その中でも、中国は太陽光発電パネルの主要な生産国として、世界市場において圧倒的な存在感を示している。しかし、中国の太陽光パネルの過剰生産による安値輸出と、これに伴う国際貿易摩擦が、太陽光発電の原材料市況の高騰と相まって、市場の秩序を混乱させる要因となっている。このエッセイでは、中国の太陽光パネルの生産と国際貿易摩擦の問題、および太陽光発電の主要原材料の市況について詳述し、製品安と原料高が市場に与える影響を考察する。


(中国の太陽光パネルの過剰生産と国際貿易摩擦)


 中国は、世界の太陽光パネル市場において圧倒的なシェアを誇る。その背景には、中国政府の積極的な産業政策や、国内外の需要を見据えた生産拡大戦略がある。中国の太陽光パネルメーカーは、価格競争力を武器に、世界中に製品を供給してきた。しかし、この過剰生産が国際市場において価格の下落を招き、一部の国々との間で貿易摩擦を引き起こしている。


 欧州連合(EU)やアメリカ合衆国などの国々は、中国からの安価な太陽光パネルの輸入により、自国の太陽光パネル産業が圧迫されることを懸念している。その結果、アンチダンピング関税や輸入制限措置を導入する動きが見られる。これに対して、中国は報復措置を取るなど、貿易摩擦はますます深刻化している。


(太陽光発電の主要原材料の市況)


 太陽光パネルの製造に必要な主要原材料には、シリコン、銅、インジウム、セレン、ペロブスカイト材料、アルミニウム、ガラス、ポリマーなどがある。これらの材料の国際市況は、需要の増加や供給の不安定さにより、変動が激しい。以下に市況動向を報告したい。


1. シリコン


 シリコンは、太陽光パネルの主材料であり、その供給体制は比較的安定している。しかし、需要増加に伴い、一部で価格の変動が見られる。特に中国やインドの生産拠点の稼働状況が需給に影響し、2025年以降も成長が続き長期的には安定成長が予想される [1] (https://pando.life/article/1204924) [3] (https://pando.life/article/1216043)。


2. 銅


 銅の国際価格は、世界的なインフラ投資の拡大や電気自動車(EV)の普及により上昇圧力が強まっている。太陽光パネルの配線用途としても需要が底堅く、供給不足が懸念されているため、価格動向には注意が必要である。


3. インジウム


 インジウムは希少資源であり、薄膜太陽電池の需要増加に伴い国際市況は高値推移が続いている。供給は限られているため、代替材料の研究も進められているが、市場のボラティリティが大きい。[3] (https://pando.life/article/1216043)。


4. セレン


 セレンも薄膜太陽電池の材料であるが、産出が限られ、近年の需要増加で価格は若干上昇傾向にある。特に、中国や南米からの供給量が需給に大きく影響する状況にある。


5. ペロブスカイト材料


 ペロブスカイト太陽電池の材料は、市場規模はまだ小さいものの、2025年以降の量産化で急速な成長が見込まれている。製造コストの低さから大きな注目を集めており、米国や日本、欧州の企業が研究開発を進めている。材料の主成分であるヨウ化鉛やメチルアンモニウムの需給体制の強化も進んでいる。(https://enetech.co.jp/guide/perovskite-solar-cells/)。


6. アルミニウム


 アルミニウムは構造材としての需要が堅調であり、世界的なインフラ需要の増加により安定した価格推移を示している。リサイクル率も高く、環境対応型製造プロセスの拡大が市場成長に寄与している。


7. ガラス


 ガラスは強化ガラスが主流であり、耐久性の要求上、品質向上に伴う高機能ガラスへの移行が進んでいる。市場は年率10%以上の成長を続けており、特に軽量化や透過率向上を図る新素材の開発も活発である。


8. ポリマー


 バックシートやエンキャプシュレーション層に使われるポリマー材料は、耐候性・耐紫外線性の要求から高性能ポリマーの需要が拡大している。環境規制の強化により、生分解性やリサイクル可能な素材の採用も増加している。


(太陽光パネルリサイクル市場)


 これら材料の持続可能な利用を支えるため、太陽光パネルリサイクル市場も急成長している。2025年のリサイクル市場規模は約3億ドルに達し、2035年には約30億ドルに成長する見込みで、年平均成長率は約32.3%と非常に高い。リサイクル技術はガラス、アルミニウム、シリコン、貴金属の回収を効率化し、資源循環と環境負荷低減に貢献している [5] (https://www.dreamnews.jp/press/0000319615/)。


(製品安と原料高が市場に与える影響)


 中国の太陽光パネルの過剰生産による安値輸出は、国際市場において価格の下落を招いている。一方で、太陽光パネルの製造に必要な主要原材料の国際市況は、需給の不安定さや希少資源の供給制約により高騰している。このように、製品安と原料高が同時に発生することは、市場の秩序を混乱させる要因となり得る。


 特に、原材料の供給制約が続く中での価格高騰は、太陽光パネルの製造コストを押し上げ、企業の利益率を圧迫する可能性がある。これにより、太陽光発電の普及が進む一方で、新規参入企業にとっては参入障壁が高くなり、競争が激化することが予想される。


 さらに、国際貿易摩擦が続く中での市場の不透明さは、企業の戦略的な意思決定を困難にし、長期的な投資計画に影響を与える可能性がある。これにより、太陽光発電市場全体の成長が鈍化するリスクも考慮しなければならない。


(まとめ)


 中国の太陽光パネルの過剰生産による安値輸出と国際貿易摩擦、そして太陽光発電の主要原材料の市況高騰が、製品安と原料高という市場の二極化を引き起こしている。この状況は、太陽光発電市場の健全な成長を阻害する可能性があり、各国の政策や企業の戦略が試されている。持続可能なエネルギーの普及を進めるためには、原材料の安定供給と市場の透明性を確保することが重要であり、国際的な協調と技術革新が求められる。

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