お知らせ
2025.03.07
偽ニッケル事件は、私にとって忌まわしい思い出であり、ビジネスの世界において「良いことがあれば悪いことも起こる」という教訓を強く印象づけた出来事である。私は当時、レアメタルの仕事に熱中しており、日本のニッケルの商売を部下に任せきりにしていた。
その中で、カントーメタルという会社による倒産詐欺が発生した。1998年2月5日、カントーメタルは約250億円の負債を抱え、東京地裁に自己破産を申請した。この会社は1986年に設立され、ニッケル系スクラップの扱いを中心に急成長を遂げていたが、ニッケルの国際価格は1986年から1998年までの間、非常に低迷しており、国内市場の需給も低調だった。このため、リサイクル業者は休業や廃業が相次いでいた。
カントーメタルは、偽ニッケルを日本から香港、さらに台湾を経由して日本に輸出するという詐欺的手法を用いた。具体的には、偽ニッケルがドラム缶に詰められ、ドラムを開けることなく香港から台湾に送られ、その後日本に輸出されるという流れだった。実際の内容物は一切わからないまま取引が行われていたため、問題が深刻化していった。関与する企業は現物の確認を怠り、その結果大きな損失を被ることになった。
私自身も、部下が「こんなに儲かります」と喜んで新規取引の報告書を持ってきた際に、何かおかしいと感じて関東メタルの社長を呼び、面談を行った。しかし、役員たちはその社長を信じて推奨し、私は疑念を抱きながらも最終的にその取引を決定してしまった。結果、カントーメタルは業務を停止し、債務総額は260億円に達した。事件の影響で、鈴木産業は23億円の債権を抱え、連鎖倒産が発生する事態となった。
事件が明るみに出たのは、営業倉庫の担当者が偽の出荷確認書を使って無断出荷を行ったことがきっかけであった。私たちは事前に噂を聞きつけ、倉庫に保管していた物を移送する手段を講じたが、既に手遅れであった。結局、私はカントーメタルの社長に騙され、約3億2000万円の損害を出してしまった。業界内では、当時の日商岩井の鉄鋼原料部が計画倒産を指揮したとの根強い噂もあったが、最終的に取引を決定したのは私自身であるため、責任を問われるのは当然であった。
この事件は、私の部下にも深刻な影響を及ぼした。詐欺に関与した部下はノイローゼになり、会社に出てこなくなった。彼は「同僚の視線が顔につき刺さる」と訴え、最終的には辞職してしまった。私も責任を感じ、その後、副社長に辞表を懐に入れて事情を説明した。副社長は「会社を辞めて許されると思うな。損失はお前の会社人生の中で100倍にして取り戻せ」と叱責した。この温情溢れる言葉は今でも私の心に深く刻まれている。
偽ニッケル事件は、商業倫理の欠如や経済的合理性の追求がもたらした悲劇的な結果である。事件を通じて、他人に迷惑をかけることの重大さや商道徳の重要性を再確認する機会となった。私自身の経験から、ビジネスの世界には注意深く対処すべき側面が多く存在することを痛感している。これからは、より慎重に行動し、信頼できる情報をもとに判断を下すことが求められると強く感じている。
【本事件の概要】
発生時期と背景:
1998年2月5日、東京・神田にあった非鉄金属商社「カントーメタル」が約250億円の負債を抱えて東京地裁に自己破産を申請した。この会社は1986年に設立され、ニッケル系スクラップの扱いを中心に急成長を遂げた。
市場状況:
1986年、ニッケルの国際価格は非常に低迷しており、1998年までの8年間も価格は2〜3ドル台で推移していた。このため、国内市場も需給が低調で、リサイクル業者は休業や廃業が相次いでいた。
詐欺的手法:
カントーメタルは、偽ニッケルを日本から香港、さらに台湾を経由して日本に輸出するという手口を用いた。具体的には、偽ニッケルがドラム缶に詰められ、ドラムを開けることなく香港から台湾に送られ、その後日本に輸出された。このため、実際の内容物は一切わからないまま取引が行われていた。
監査の不備:
実際に現物を確認することが求められていたにもかかわらず、大手銀行の部長が部下に現物ドラムのチェックを指示したが、現場では内容を確認せずに終わった。このため、問題が生じることとなった。後になって、知り合いの部長も同様に騙されたという噂が広まった。
倒産の影響:
この事件により、東京の鈴木産業が重大な損失を被り、老舗のスクラップ企業である鈴木産業までもが倒産するという事態に至った。このような影響は当時の業界に驚きを与えた。
企業文化の問題:
カントーメタルの経営陣は、粉飾決算や派手な接待を続けながら、実際の経営状況を隠蔽していた。その結果、多くの企業や個人に損害を与えた。
社会的影響:
この事件は、商道徳や人道に反する行為として大きな非難を浴びた。事件は報道されることが少なくなり、風化していった。
関係者のその後:
カントーメタルの関係者のその後については、詐欺で告訴されたり、逃亡したという風聞があるが、具体的な情報は確認されていない。被害を被った企業や個人は、事件の処理に重点を移し、その後の状況はあまり語られなくなった。
反省と教訓:
事件を通じて、商業活動において他人に迷惑をかけることの重大さを認識し、商道徳の重要性を再確認する機会となった。
このように、偽ニッケル事件は商業倫理の欠如や経済的合理性の追求がもたらした悲劇的な結果であり、レアメタルビジネスにおける倫理的な判断の重要性を示す教訓となっている。