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2025.02.18

レアメタル千夜一夜 第17夜 レアメタル開発とミャンマーの麻薬の世界

 ミャンマーは、世界有数のルビーと翡翠の産地であり、同時に麻薬(オピウム)とレアメタルの宝庫である。この地で「リトル・ドラゴン」と呼ばれるアウントン氏(52歳)は、シャン族、パオ族、カチン族の血を引く少数民族の代表的存在となっている。彼は貧困な家庭に生まれ、9人兄弟の末っ子として育ったが、幼少期からの努力と運命により、ミャンマーの経済界で成功を収めることとなった。


 アウントン氏は、12歳の頃から父親に連れられて行商を始め、隣国のタイに入り込んで日本製のうま味調味料や家電製品の運び屋としての経験を積んだ。この経験が彼のビジネスセンスを磨く土壌となり、20代になってからはルビーや翡翠などの宝石を扱うようになった。彼の人生の転機は、軍隊に入隊し、備品調達などを通じて頭角を現したことにある。シャン族の将軍に可愛がられ、将軍の娘と結婚したことで、彼は軍内部での出世が加速した。


 アウントン氏は、やがてシャン族の議員に選ばれ、勢力を拡大しながらシャン州を中心にルビーや翡翠の権益を手に入れ、ついにはミャンマーで最大の宝石王にまで上り詰めた。しかし、彼の成功の背後には、麻薬ビジネスとの関連性があるのではないかという思いがあった。レアメタル鉱山(アンチモン)の開発地域は、例外なく芥子の栽培地に隣接しており、そのため彼のビジネスが麻薬ビジネスを隠蔽する手段として機能しているのではないかと直感した。しかし、彼との何度かの会話を通じて、彼がレアメタル鉱山の開発に熱心であり、同じ価値観を持っていることを理解し、信頼関係が築かれた。


 彼はシャン族だけでなく、ミャンマーの全ての少数民族を束ねている。少数民族の反政府軍の勢力は特に北部における資源権益と切っても切れない関係にあり、彼が選挙に勝つためには少数民族の有力者や上座部仏教の僧侶たちとの協力が不可欠であった。実際、レアメタル鉱山を訪問した際、北部の山間部には美しい景色の中に「けし」が群生している地域があり、その芥子畑を管理しているのは地域の僧侶たちであった。彼らは、上座部仏教に帰依している農民たちのリーダーとして、実質的な権限を持っていた。


 アウントン氏に紹介された僧侶とは、現地訪問の際に必ず挨拶を交わし、顔見知りとなった。しかし、数年後に訪問した際には、その僧侶が麻薬中毒で入院していると聞いて驚愕した。これにより、少数民族の経済的基盤がオピウムによる裏経済に依存している現実を再認識することとなった。


 15年前、ミャンマーの鉱山開発を目的に何度も訪問したが、ミャンマーでの鉱山開発は極めて困難である。ASEANにおける最大の未開発資源大国であるにもかかわらず、インフラの未整備がその大きな障壁となっている。特に、反政府軍が支配する北部の山間部の開発は進まず、民主化の進展においても同様である。


 実際に日本政府のデレゲーションに参加して現地訪問を行った際、ヤンゴンの商工会議所の重鎮との面談や、首都ネピドーの政府首脳との面談において、少数民族の代表者の姿は見当たらなかった。このことから、ミャンマーの民主化は確実に進行しているが、北部の少数民族との協力がなければ成功は難しいことが明らかである。


 ミャンマーの未来は少数民族との協力によって左右されると言っても過言ではない。彼らの声を大切にし、共に歩むことで、真の経済的発展と政治的統一が可能になると信じている。ミャンマーの民主化と繁栄を心から願うものである。

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