お知らせ

2025.10.29

レアメタル千夜一夜 第92夜 日米共同による日本深海資源開発戦略

はじめに


 近年、米中間でのレアアース争奪戦が激化している。中国は世界のレアアース市場で圧倒的なシェアを持ち、アメリカをはじめとする先進国はその供給依存から脱却することを急務としている。日本も例外ではなく、戦略的資源としての深海鉱物の確保が国家安全保障上、極めて重要な課題となっている。ここで、日本の深海資源開発を日米共同で進める観点から整理したい。


日本の深海資源 ― 概要


 日本は世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有し、その広大な海域には多種多様な鉱物資源が眠っている。特に注目される資源は以下の三つである。
レアアース泥(南鳥島周辺)
マンガンノジュール(太平洋公海域)
コバルトリッチクラスト(海山の斜面)


 これらは生成過程、含有金属、採取難易度、商業化の可能性に大きな差がある。現状、最も現実的な資源は南鳥島周辺のレアアース泥である。


南鳥島のレアアース泥(Rare Earth Elements Mud)


資源の特徴


 南鳥島のEEZ内、深度5,000〜6,000mの深海堆積層には、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなどの重希土類を含むレアアース泥が広がる。最大含有量は8,000ppmに達し、陸上鉱床の数十倍である。泥状であるため、吸引方式による採取が可能であり、推定面積は約2,500㎢に及ぶ。


技術的実現性


 東京大学加藤泰浩教授らの研究により、6,000m級の深海での採泥技術は実用化の見通しが立ちつつある。日米共同で開発を進めることで、深海吸引装置の設計や海上一次処理ユニットの共同運用が可能となり、技術面の課題を迅速に克服できる。


環境・経済面の考慮


 採掘による海洋生態系への影響は未解明であるため、日米協力のもと、生態系モニタリングや緩和策を組み込むことが必須である。経済面では、中国依存から脱却する戦略資源として、2030年代の商業化が視野に入る。


マンガンノジュール(Manganese Nodules)


資源概要


 太平洋の深海底に散在する黒い球状鉱塊で、マンガンや鉄酸化物が層状に沈殿して形成される。含有金属はマンガン、ニッケル、コバルト、銅などであり、電池や電動車用素材として需要が増大している。


技術・実現性


 成熟した吸引技術で採掘は可能であるが、公海に分布するため国際海底機構(ISA)の開発権管理を受ける。処理コストや環境規制が商業化の大きな課題である。


日米共同の意義


 米国の先進的な海洋技術と日本の海洋研究能力を組み合わせることで、商業化に向けた試験的採掘や環境保護技術の確立が期待される。


コバルトリッチクラスト(Cobalt-Rich Crust)


資源の特徴


 海底火山斜面に形成される鉄マンガン酸化物の皮膜であり、コバルト、白金、ニッケル、テルルなどを高濃度に含む。南鳥島や小笠原の海山で発見されている。


技術的課題


 固体状であるため、カッター切削方式による採掘が必要である。掘削・運搬技術は依然として課題が多く、環境面でも生態系への影響が懸念される。


戦略的価値


 高濃度資源であるため、長期的な戦略資源として位置づけられ、日米の技術協力による低環境負荷型採掘技術の開発が望まれる。


総合評価と実現性


 最も現実的な資源は南鳥島のレアアース泥である。泥状で採掘が容易であり、レアアース需要の高騰と相まって2030年代に商業化の可能性が高い。マンガンノジュールやコバルトリッチクラストは、長期戦略として日米協力のもと技術・環境面の課題解決が必須である。


歴史的教訓と資源戦略


 戦前、日本は満州鉄道利権においてアメリカを排除したことが戦略的失敗につながった。現代においては、日米安全保障の観点から、資源戦略も米国と共同で行うことが不可欠である。中露朝など周辺国の潜在的脅威から身を守るため、資源確保と安全保障は一体として考慮されねばならない。


2030〜2050年の開発シナリオ


年表(主要マイルストーン)
2024–2026年:日米による実証試験フェーズを開始。
2027–2032年:拡張・パイロット生産フェーズに移行。
2033–2039年:規制認可と初期商業化を目指す。
2040–2050年:産業化の分岐点を迎え、グローバル供給に参入。


技術面


 深海吸引採泥装置や海上一次処理ユニット、環境モニタリング装置を共同開発する。


環境リスクと緩和策


 生態系への影響を最小限にするため、日米共同で生態系回復計画を策定し、採掘後の海洋環境データを公開する。


経済性


 初期投資は数百億〜数千億円規模である。商業化成功の可否はレアアース価格に依存するが、日米共同開発によりコスト削減と技術確実性を向上させることが可能である。


地政学的側面


 国内外の法整備や国際世論、特に中国の反発を踏まえた外交戦略を併せ持つことが重要である。


成功のKPI(指標)
採泥から精製までの総回収率
生物多様性指標の回復度
日米間での共同技術移転・特許の達成度


結論


 南鳥島のレアアース泥は、2030年代の商業化に最も近い資源である。環境対策と日米協力体制の確立が成功の鍵である。マンガンノジュールやコバルトリッチクラストは長期的戦略資源として位置づけ、日米の技術力を結集し、グローバル視点で日本の深海資源開発を推進するべきである。


 戦前の歴史から学び、資源戦略を安全保障と一体化させることが、日本の未来を左右する重要課題である。レアメタルアルケミストとして、私は日米共同の深海資源開発を国家戦略の中核と位置付ける。

関連画像

Back