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2025.10.29

レアメタル千夜一夜 第91夜 ――放浪こそ人生の精錬炉―― レアメタル世界紀行 ロシアからスイス、そして南米・アジアへ 二年半の地球行脚が育てた世界観

 私の放浪の旅は、単なる若気の冒険ではなかった。今思えば、それは“世界を見て己を知る”ための魂の精錬であった。レアメタルという一見冷たい金属の世界に生涯を賭けることになった原点も、実はこの放浪にあったのだと思う。


第一章 ロシアから欧州へ――未知への扉が開く


 旅の起点はロシアであった。シベリア鉄道に身を委ね、無限に続く大地と白夜の静寂に包まれながら、私は自分の小ささと世界の広さを同時に感じた。その後、ヨーロッパの各地を巡り歩いた。ベルリンの再建の喧騒、パリの芸術の香り、ロンドンの秩序と自由の共存。それぞれの都市が異なる思想と文化を宿しており、私はその空気を全身で吸い込みながら、次第に「人間とは何か」「文明とは何か」という問いを抱くようになった。レアメタルが地球の奥深くに眠る“地球の血”であるように、人間もまた文化という“精神の鉱脈”を持っている――そんな発想が芽生え始めたのも、この頃である。


第二章 大西洋を越え、南米の風に出会う


 ヨーロッパから大西洋を渡り、ブラジルに辿り着いた。そこには陽気さと混沌、そして大地の匂いがあった。リオの海岸で見た赤土の断層は、まるで地球が自らの素顔を見せてくれたようだった。南米各地を巡るうちに、ボリビアやチリの鉱山地帯に足を踏み入れる機会を得た。後に私の天職となるレアメタルの世界との“運命の遭遇”である。その頃の私は、商社マンでも研究者でもなかった。ただ、地球という巨大な生命体の呼吸を感じ取ろうとする一介の旅人であった。だが、鉱石の輝きを見た瞬間、心の奥で何かが燃え上がった。「この金属には、地球の魂が宿っている」と感じたのである。


第三章 中米から北米へ――人種の坩堝に見る未来


 南米を一周し、私は中米へと北上した。ホンジュラス、コスタリカ、パナマ……それぞれの国が小さいながらも独自の文化と誇りを持っていた。道端で出会う人々の笑顔に、貧しさの中の強さを学んだ。メキシコでは古代マヤの遺跡に立ち尽くし、太陽と文明の関係に思いを馳せた。人類の叡智は、過去も現在も同じ地球の資源に支えられている。まさにレアメタルのような“限られた力”が人間の進化を支えてきたのだと実感した。


 その後、合衆国に入国し、西海岸からニューヨークへと向かった。ロサンゼルスの自由な空気と、ニューヨークの緊張感は対照的であった。だが、どちらも「挑戦する者を試す都市」であることに変わりはない。私はニューヨークで数多くの人種、文化、価値観に触れながら、「多様性の中にこそ進化の鍵がある」と強く感じた。


第四章 スイスの静寂と再出発


 やがて、私はニューヨークでの生活に一区切りをつけ、アイスランド経由でスイス・チューリッヒへ向かった。そこでは姉夫婦の世話になり、欧州の静謐な時間を過ごした。アルプスの雪解け水の透明さ、時計の針の正確さ、そして人々の誠実さ。そのすべてが、私の内面に“秩序と調和”という新たな価値観を植え付けてくれた。放浪の果てに得た静けさの中で、私はようやく「自分の次の道」を考えるようになった。


第五章 アフリカからアジアへ――魂の帰還


 スイスを後にした私は、さらにエジプトへと飛んだ。ピラミッドの前に立ち、数千年の時を超えて続く人類の営みに圧倒された。続いてインド、タイ、香港を経て、私はようやく日本の土を踏んだ。この二年半に及ぶ旅は、外の世界を見るだけでなく、自分の内側を見つめる旅でもあった。文明の光と影、貧困と繁栄、信仰と無関心――それらが渾然一体となって人間社会を形成している現実を、肌で感じたのである。


終章 放浪が鍛えた「鉱脈を見る眼」


 この地球行脚を経て、私は「真の価値とは何か」を考えるようになった。レアメタルは地球の深部で静かに眠る。だが、それを見つけ、掘り出し、磨く者がいて初めて輝く。人間も同じである。放浪の中で出会った人々、文化、試練が、私という“原石”を磨いてくれたのだ。


 ロシアの大地に始まり、南米の鉱脈に触れ、ニューヨークで多様性を学び、スイスで静寂を得た――そのすべてが、後に私がレアメタルビジネスの世界に身を投じる土台となった。放浪とは逃避ではない。むしろ、自分を鍛える最高の試練である。


私は今も確信している。
人生とは、旅そのものであり、レアメタルのように内なる輝きを掘り続ける行為である。

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