お知らせ

2025.06.24

レアメタル千夜一夜 第44夜 喉元過ぎれば資源危機を忘れる日本人の習性

──2025年・レアアース戦略6本の矢──


「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とはよく言ったものである。あれほど尖閣諸島問題に端を発し、中国によるレアアース禁輸措置で日本が煮え湯を飲まされたのは2010年のことであるが、その後の15年間、我が国は資源危機を記憶の彼方に追いやってしまった。


 筆者は2012年頃、中国レアアース協会の関係者とともに米国を訪れ、現地のレアアース業界及び政府関係者との意見交換を行った。その帰路、TDKの成田工場にも立ち寄ったが、政府の要請を受けて中国の要人との面談をアレンジした。日本政府の交渉姿勢は相変わらず形式的・官僚的であり、真に迫る対話は実現されなかった。このような経験は、日本の外交と産業政策における柔軟性と胆力の欠如を如実に物語っている。


 今日においても、資源ナショナリズムに対する本質的な対策を講じるべく、有志によるタスクフォース的な議論は継続されているが、国家としての抜本的な解決策は見えてこない。地震が必ず来ることが分かっていても予算化もできず、準備が進まないのと同様に、レアメタル問題もまた「分かっていても手が打てない」典型である。これを変えるには、政治主導の決断力と胆力が不可欠である。資源政策とは、まさに国家安全保障の一環であり、以下に示す六つの緊急対策をもって、日本は2025年のレアアース危機に立ち向かうべきである。


緊急レアアース対策 六本の矢


①調達先の分散化


 中国は依然として世界のレアアース供給の約7割を占める支配的存在であるが、これに依存する脆弱な体制からの脱却は急務である。日本政府は、米国、豪州、ベトナム、カザフスタン等との連携を深め、新たなサプライチェーンの構築に努めている。特に、双日と豪州ライナス社との協力関係は、日本国内需要の約3割を支える重要な柱となっている。カザフスタンやベトナムの鉱床もまた、新たな戦略資源基地として期待される。


②レアアースフリー技術の確立


 レアアースを使用しない技術開発は、脱依存戦略の根幹である。日本電産が開発を進める次世代モーター「SRモーター」は、レアアースを一切使用しない画期的技術として量産体制に入りつつある。日立製作所やダイキン工業なども同様の動きを見せており、電動車や産業機械におけるレアアースフリー化が加速している。


③リサイクル技術の強化


 昭和電工は、ベトナムの現地法人を活用して、ジスプロシウムやネオジムの再資源化を実施しており、信越化学工業もまた、使用済みエアコンのモーターから高効率でレアアースを回収する技術を確立した。日本は「都市鉱山」とも言える使用済み電子機器のリサイクルを強化し、資源循環型社会への移行を急ぐ必要がある。


④レアアース使用量の削減技術


 代替設計による使用量削減も有効である。佐川博士はジスプロシウムの使用量を10分の1に削減する技術を開発しており、TDKは20〜30%の削減を実現した磁性材料を発表している。名古屋工業大学では、従来比でレアアース使用を半減したモーターの試作にも成功した。他にも進行中のあっと驚く技術が目白押しである。


⑤代替材料の研究開発


 素材の代替もまた戦略的手段である。次世代材料科学の進展により、レアアースを使用しない高性能磁性材料の研究が進み、特に電気自動車や風力発電用モーターへの応用が視野に入っている。こうした開発は、供給リスクの軽減のみならず、国際競争力の強化にも寄与する。


⑥国家備蓄体制の強化


 日本は現在、約1〜2年分の使用量に相当する民間備蓄を有しているが、韓国のように国家主導で10年分を備蓄する体制を確立すべきである。2024年の政令改正により、国家備蓄の制度化が進み、2025年には初めてその成果が顕在化している。経済産業省主導の長期備蓄戦略こそ、平時における有事対応の要諦である。


 さらに言えば、日本近海の海底には膨大なレアアース資源が眠っているとされており、6000メートルは無理だが500メートル前後の深海であれば現在の技術で商業採掘が現実的となってきている。これを国家プロジェクトとして推進し、自給率の向上を目指すべきである。筆者が提案している南鳥島のレアアース泥の開発と総合的レアアース産業の再構築をアメリカとの共同資本で実行すべきである。


 ウクライナにはレアアース資源量は少ないにも関わらずトランプ大統領はえウクライナの鉱物資源の共同開発に調印した事実がある。技術があり、対中国の脅威があり、実質的な安全保障にもなる日本とトランプ大統領とのディールはまさにチャンスである。


 中国による輸出制限は、資源外交における我が国の脆弱性を再認識させた。レアアースに限らず、供給が偏在する鉱物資源は他にも多数存在し、世界のどこで資源ナショナリズムが再燃するかは予測不能である。今回これから顕在化するであろう価格高騰は、かつてのオイルショックを彷彿とさせる異常事態であり、政・官・財が一致団結し、グローバルリスクへの包括的対応を構築することが急務である。


 資源に乏しい島国・日本が、いかにして戦略的資源の確保と技術革新を両立させるか。この命題は、もはや産業政策に留まらず、国家の生存戦略そのものである。

関連画像

Back