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2025.02.04

レアメタル千夜一夜 第十夜 世界のリチウムの資源供給と需給面の変遷

前回はバッテリーメタル(Li,Co,Ni)の問題点とあるべき姿について議論をしたが今回はリチウムイオンバッテリーの主要メタルであるリチウムの資源問題と需給について議論してみたい。
先ず始めに現状のリチウムの資源供給と需給面の変化を国別に分かりやすく説明してみたい。


### アメリカ


– 供給面: アメリカは一時期リチウムの主要生産国でしたが、2000年代初頭には他国に比べて生産が減少しました。しかし、近年、テスラなどの電気自動車メーカーの影響で国内のリチウム資源開発が再注目されています。ネバダ州やノースカロライナ州で新たなプロジェクトが進行中です。


– 需給面: 電気自動車の需要が急増しているため、国内でのリチウム供給の安定化が求められています。政府もリチウム戦略を強化し、供給チェーンの構築を目指しています。
https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2023/11/mrseminar2023_1106_01.pdf


### 中国


– 供給面: 中国はリチウムの主要な生産国であり、豊富な資源を持っています。特にリチウム鉱石の採掘と加工において強力な技術を持つため、国際的な供給チェーンの中心とも言えます。


– 需給面: 国内の電気自動車市場が急成長しているため、リチウムの需要も急増しています。中国は自国の需要を満たすために、国外からの資源獲得にも積極的です。
https://harveypoweress.com/ja/top100-china-lithium-battery-manufacturer/


### チリ


– 供給面: チリは「リチウムトライアングル」と呼ばれる地域に位置し、塩湖からのリチウム供給が豊富です。世界的に見ても大きなリチウム供給源となっています。


– 需給面: チリのリチウムは主に国際市場に供給され、特に中国やアメリカの電池メーカーに需要があります。環境規制や水資源の管理が課題となっていますが、安定した供給が続いています。
https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2012-03/MRv41n6-01.pdf


### アルゼンチン


– 供給面: アルゼンチンも「リチウムトライアングル」に位置し、リチウム塩湖からの採掘が進んでいます。リチウムの生産は増加傾向にあり、国際市場への供給が期待されています。


– 需給面: アルゼンチンのリチウムは主に輸出されており、特に中国やアメリカの電池メーカーに需要があります。経済政策や外資の誘致がリチウム産業の成長に影響を与えています。
https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2013-01/MRv42n5-03.pdf


### オーストラリア


– 供給面: オーストラリアはリチウム鉱石の主要な生産国で、特にGreenbushesが大規模な生産を行っています。高品質の鉱石が供給されており、国際市場での影響力を持っています。


– 需給面: 中国の電池メーカーに対するリチウムの輸出が多く、需要が増加しています。オーストラリアはリチウム供給の安定性を保つために新たなプロジェクトを計画しています。
https://mric.jogmec.go.jp/reports/mr/20230428/176955/


注:ボリビアのリチウム資源(オユニ塩湖等)は全世界の23%と最大ですが国家方針として環境面から開発は停止しています。
https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2023/11/mrseminar2023_1107_02.pdf


### まとめ


リチウムの供給と需給は国によって異なりますが、全体として電気自動車の普及と技術革新により、リチウムの需要は急増しています。アメリカ、中国、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、ボリビアはそれぞれ異なる役割を果たしながら、国際的なリチウム供給チェーンに貢献しています。今後も持続可能な開発と環境への配慮が重要なテーマとなるでしょう。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221004/amp/k10013846841000.html


続いて日本におけるリチウム資源の獲得の歴史と需給バランスについて、年代別に説明します。また、他国に対する出遅れの要因についても併せて触れます。


### 1980年代


– 状況: リチウムは主にセラミックスやガラス産業で使用されており、筆者は米国のLCA社から炭酸リチウム等を日本化学工業に供給していましたがリチウムイオン電池の商業化はまだ始まっていませんでした。日本のリチウム需要はまだ限られていました。特筆すべきは吉野彰先生が1985年にリチウムイオン電池を開発したことです(2019年ノーベル化学賞を受賞)


– 出遅れ: リチウム資源の獲得に関する戦略は当時は明確でなく、他国に比べて積極的な開発や投資は行われていませんでした。


### 1990年代


– 状況: リチウムイオン電池の開発が進み、日本の企業(特にソニー)が新技術を導入して市場での競争力を高めました。しかし、リチウム資源の確保にはあまり注力されていませんでした。


– 出遅れ: アメリカや中国がリチウム資源の開発を進める中、日本は自国のリチウム資源を持たず、海外からの調達に依存していました。


### 2000年代


– 状況: 電気自動車(EV)の需要が高まり、リチウムの重要性が増しました。日本の企業はリチウムイオン電池の生産において世界をリードしていましたが、リチウム資源確保は依然として課題でした。


– 出遅れ: チリやアルゼンチンの塩湖からのリチウム供給が増加する中で、日本は安定した供給源を確保できず、他国に対して出遅れている状況が続きました。


### 2010年代


– 状況: 日本はリチウムイオン電池の技術革新を続けたものの、リチウム資源の確保に関しては依然として遅れをとっていました。特に中国の電池メーカーが急成長し、リチウムの需給バランスが変化しました。


– 出遅れ: 日本の企業は海外のリチウム鉱山開発に対する投資が不足し、また、資源国でのパートナーシップ構築にも遅れが見られました。


### 2020年代


– 状況: 電気自動車の普及が進む中、日本のリチウム需要は急増しています。政府や企業が持続可能なリチウム供給の確保に向けた戦略を強化しています。


– 出遅れ: 他国(特に中国やオーストラリア)がリチウム資源の開発を進める中で、日本は依然として資源の確保に課題を抱えています。最近では、海外の鉱山プロジェクトへの投資や、リチウムリサイクル技術の開発が進められていますが、依然として供給の安定性には懸念が残ります。


### まとめ


日本は吉野彰教のリチウムイオン電池の偉業(2019年ノーベル化学賞を受賞)にも関わらずリチウム資源の獲得戦略において、他国に対して出遅れがちでした。特にリチウムイオン電池技術の商業化が進んだ1990年代から2000年代にかけて、資源確保に関する戦略が不十分だったことが影響しています。近年は政府や企業がリチウム供給の安定化に向けた取り組みを強化しているものの、依然として他国に対する競争は厳しい状況です。今後の戦略的な動きが求められます。


日本がリチウム資源の獲得に遅れた理由と、その需給面での戦略がはっきりしなかった原因について、以下に詳しく説明します。


### 1. リチウム資源の獲得に遅れた原因


#### a. 国内資源の不足


日本には商業的に採掘可能なリチウム資源がほとんど存在せず、海外からの調達に依存せざるを得ない状況でした。このため、国内でのリチウム資源開発の必要性が低く、他国に対する競争力が不足していました。


#### b. 初期の市場認識の不足


1980年代から1990年代にかけて、リチウムの重要性は主にセラミックスやガラス産業に限定されていました。リチウムイオン電池の商業化が進む前は、リチウムの需要が低く、長期的な視点での資源獲得が軽視されていました。


#### c. 競争環境の変化に対する適応不足


2000年代に入ると、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの蓄電システムに対する需要が急増しましたが、日本はその変化に迅速に適応できず、競争が激化する中で資源確保に遅れをとったのです。


### 2. 需給面での戦略がはっきりしなかった原因


#### a. 政策の不明確さ


リチウム資源の確保に対する国家的な戦略が明確でなかったため、企業は長期的な投資を行う意義を見出せず、資源獲得のための明確な行動を起こしにくい状況でした。政府によるリチウム政策が後手に回ったことが影響しています。


#### b. 海外市場への依存


日本企業は、リチウムの供給を海外に大きく依存しているため、安定的な供給を確保するための戦略が不十分でした。特に、中国やオーストラリアなどがリチウム資源の開発を進める中で、競争力を保つための対策が必要でしたが、具体的な戦略が欠如していました。


#### c. 投資の慎重さ


日本の企業は、リスクを避ける傾向が強く、新興市場や資源開発への投資に慎重でした。このため、海外のリチウム鉱山プロジェクトへの早期投資が行われず、結果的に供給の確保が遅れました。


### まとめ


日本がリチウム資源の獲得に遅れたのは、国内資源の不足、市場認識の不足、競争環境への適応不足が主な要因です。また、需給面での戦略がはっきりしなかったのは、政策の不明確さ、海外市場への依存、投資の慎重さが影響しています。今後は、これらの課題を克服し、持続可能なリチウム供給の確保に向けた戦略を明確にすることが求められます。


日本企業はリチウム資源は「金さえ出せば入ってくる」との認識があるが資源戦略がない限り日本の産業は立ち行かないことが理解されてないとの見方があります。
次号ではリチウム資源だけでなく、日本の半導体産業での戦略ミスやレアアース産業における失敗の原因についても言及したいとと思います。

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